2021 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Religious Studies of Rumi's Mysticism - Focusing on the relationship with Christianity -
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21K00077
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
佐野 東生 龍谷大学, 国際学部, 教授 (60351334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久松 英二 龍谷大学, 国際学部, 教授 (90257642)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ルーミー / 神秘思想 / ギリシア正教 / ヘシュカズム / イエス / ペルシア文学 / トルコ / 中央アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績として、Covid19の影響で、当初予定していた海外(トルコ)における調査は中止となったが、代わってルーミーに関係する文献調査が進展した。ルーミーの原典である『精神的マスナヴィー』『シャムセ・タブリーズィー詩集』などのペルシア語版とその注釈、研究書類を取り寄せ、また東京出張の際に東京大学東洋文化研究所図書館などで閲覧した。この調査でキリスト教との関連個所などを精読、比較分析を進めた。日本宗教学会全国大会でのルーミーとキリスト教ヘシュカズムとの比較思想に関する研究発表(ルーミーの神秘思想に見るキリスト教観―「無」の思想を軸に―)(2021年9月7日)、また本研究と関連する龍谷大学国際社会文化研究所指定研究PJ「異文化理解と多文化共生」(代表・佐野)の最終シンポジウム「神秘思想における善悪の彼岸―否定神学と悪魔論をめぐって―」における講演(佐野「否定神学から悪魔観へ―カリフ・アリーからルーミーに至る精神的系譜―」、久松「東方キリスト教神秘思想と否定神学―プラトンからパラマスまで―」)で研究成果を発表した。 また、論文として『龍谷大学国際社会文化研究所紀要』に「ルーミーとキリスト教2―そのイエス・キリスト教徒観より―」を執筆(2022年6月発行予定)、ルーミーのイスラーム的にも珍しい「無」の思想とヘシュカズムの大成者・パラマスの主張点を比較し、その神との「愛」を軸とする共通性について基本的見解を示した。また『イラン研究』(大阪大学)に「ルーミーの「生地」ヴァフシュをめぐって」を執筆(2022年3月発行)し、ルーミーの出身地であるヴァフシュ(中央アジアのタジキスタン)で父が行った思索・活動を父の執筆した『霊智集』(ペルシア語)に基づき分析した。その中で、特に13世紀当時まだ存在した仏教との関係に言及した。以上のように、2021年度の研究は一定の成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は2021年度から開始され、これまで研究テーマであるルーミーとキリスト教の比較研究が徐々に実施されてきている。まずルーミーに関するペルシア語をはじめとする基本的文献がほぼ入手完了し、現在講読・分析を続けている状況である。特にキリスト教関連個所の分析を通じ、ルーミーがイエス・キリストを預言者・聖人として高く評価し、キリスト教についても宗派への分裂など問題点を指摘しつつ、本来の教えはイスラーム同様に評価していたことが判明しつつある。 同時に、こうしたキリスト教への評価を含め、ルーミーがどこまで公的なイスラームに則って自らの思想・文学を発展させていったかを探るため、『精神的マスナヴィー』におけるクルアーンの章句などの引用や反映のあり方に関する分析を開始している。同じくルーミー研究を行う村山木乃実・学振PDと共同で多数の詩句にわたる講読・分析を続けている。その結果、ルーミーがハナフィー派(イスラーム四大法学派のひとつ)ウラマーの立場から原則としてイスラームの枠内で神秘思想を発展させていったことを示しつつあるが、時には通常のイスラームとは異なり、また超える面もあるように見られ、今後のさらなる研究の端緒となるものである。 また、キリスト教側では、研究分担者の久松によりパラマスに至る東方正教会の思想的発展が整理され、イスラーム神秘思想との接点が考察されている。そしてヘシュカズムの本来不可知の神との、エネルゲイアを通じた「一致」に至る内的展開がイスラーム神秘思想におけるファナー(自己滅却)を通じた神との合一とある程度の相似性を持つ点が指摘されつつある。同時に実践的修行面において、ヘシュカズムの修行方法であるイエスの祈りと、スーフィズムのズィクル、セマーにおける神名の唱名を通じた神との合一との類似性が指摘されつつある。これらにより、今後の比較研究を行う基盤が整理されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まず2022年度に本研究代表の佐野が所属大学の特別研究員としてトルコ(国立アンカラ大学)に滞在し調査活動を行う方針である。本来は英国への滞在を予定していたが、Covid 19の影響などで中止となりトルコに2022年7月から2023年2月まで滞在する予定に変更した。アンカラ大学ではアジア太平洋研究センターの客員研究員として、M・デュンダル所長の協力を得て、アジア中東の宗教文化研究の一環として本研究を推進する。同大学で本研究に関するトルコ語などの文献調査を行うとともに同大学神学部とも交流し、ルーミーを軸とする神秘主義研究について意見交換する。 トルコ中部にはルーミーの活動地であるコンヤがある。同地でフィールド調査を行い、ルーミーの命日(12月中旬)の年次大祭(シャベ・アルース)を中心に観察するとともに、メヴレヴィー教団(ルーミーの後継教団)関係者らから聞き取り調査、同教団の修行法であるセマー(身体旋回を伴うズィクル)について観察調査を行う。また同教団長のチェレビー家(ルーミーの直系子孫)とも可能であれば聞き取り調査を行う。同時に、コンヤの国立セルチュク大学のルーミー研究所とコンタクトし、本研究に関する助力を得る。 キリスト教との関係について、トルコ国内のギリシア正教の教会・関係者とコンタクトし、イスラーム全般、およびルーミーに関する見解を伺う。可能であれば、ギリシア正教修道院におけるイエスの祈りなどの修行方法についても調査する。久松も日本においてヘシュカズムとイスラーム神秘主義の修行方法の比較研究を進め、佐野と適宜情報を交換する。これらを基に、2023年度に久松は英国、アメリカに所属大学の長期研究員として滞在し、本研究を推進する。また佐野とともにギリシアでフィールド調査を行い、ヘシュカズムとルーミー思想の実践面を主体とする比較研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、前年度に予定していたトルコ調査がCovid 19の影響でやむをえず中止となったことがある。これにより、研究代表の所属大学の他の研究予算とあわせて使用を予定していた本助成金300,000円が使用できなくなった。 翌年度分として請求した助成金700,000円とあわせ、本年度は研究代表が7月以降8か月ほどトルコ滞在を予定する中で、フィールド調査を中心に使用する計画である。具体的には、複数回にわたるアンカラからコンヤ、またイスタンブルなどへの調査費用としての交通費、宿泊費、専門的通訳ガイド雇用費、謝金、またトルコ語文献購入費として使用する予定である。 同時に、研究分担者による日本での調査として、東京出張旅費、文献購入費にもあてる計画である。
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