2023 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Religious Studies of Rumi's Mysticism - Focusing on the relationship with Christianity -
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21K00077
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
佐野 東生 龍谷大学, 国際学部, 教授 (60351334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久松 英二 龍谷大学, 国際学部, 教授 (90257642)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 神秘主義 / ルーミー思想 / ギリシア正教 / ヘシュカズム / イエスの祈り / ズィクル / 聖人崇拝 / 包括主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、前年度の本研究代表者(以下佐野)のトルコ長期滞在・調査、および当該年度の分担者(以下久松)の英国・米国への長期研究滞在の成果に基づいて研究を継続し、イスラームとキリスト教の比較宗教学的分析に関する共著『キリスト教とイスラーム・対立から共生へ』を編集・執筆した。同書は龍谷大学国際社会文化研究所(以下社文研)指定研究「異文化理解と多文化共生」(代表:佐野)の一環として佐野・久松が編集し、それぞれルーミーのキリスト教との交流、ギリシア正教のイエスの祈りとイスラーム神秘主義の祈り:ズィクルの比較考察を執筆し、本研究の成果を反映している(晃洋書房:2024年7月出版予定)。 2024年2月には佐野・久松によりギリシア調査を実施し、ギリシア正教修道院の祈りのあり方、聖人崇拝などを実地調査した。特にアテネ郊外の聖マリア修道院では、通常は難しい修道女らとの貴重な交流の機会、および同修道院設立者で列聖直前の修道司祭から祝福を得て、ギリシア正教の実践的信仰を体験できた。その他、ギリシア内陸部のメテオラ修道院やパロス島修道院で日常的なイエスの祈り,聖人崇拝など生きた信仰の模様が理解された。今後、イスラーム側の祈り、聖人崇拝などと比較していく。 その他、本研究との関連で2023年11月、佐野がトルコの国立セルチュク大学からルーミー専門家のテミーゼル教授を招聘し、龍谷大学と東京ジャーミィで連続講演を行い、比較宗教的視点からルーミー思想を論じ、反響を得た。また本研究の延長として佐野らによりルーミー思想と仏教との比較研究もなされ、2024年11月に共著として出版予定(法蔵館)である。以上の研究でルーミーをはじめ、自宗教中心に相手に理解を示す包括主義的立場が両宗教の共生上、現実的意義があることが暗示された。今後、宗教の共生をめぐる理論的基盤に資する可能性もあり、本年度の研究は有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現在まで、まずルーミーの実践的神秘思想について、代表作『精神的マスナヴィー』(以下マスナヴィー)などの著作、および注釈、研究書などの文献調査、トルコにおけるルーミーを開祖とするメヴレヴィー教団の実態・儀礼などの実地調査が進んできている。その結果、ルーミーの神秘思想が、諸宗教に共通の根源的一者との一体化を目指しながら、自身ウラマー(イスラーム法学者)としてイスラーム信仰を守り、その枠内でキリスト教も受け入れるという、一種のイスラーム中心の包括主義的立場をとっていたことが判明してきた。 またイスラームにおけるキリスト教評価について、ルーミーの著作をはじめ、クルアーン、ハディースや一部タフスィール(クルアーン解釈)の分析を通じ、イエスとキリスト教の位置づけが解明されてきている。イエスはクルアーンでは預言者で神ではないとされる点がキリスト教との相違だが、神秘主義では聖人としてより神に近づき、ルーミーもマスナヴィーなどでイエスの死者復活や疾病治癒の奇跡を謳い、特別な預言者として評価している。他方マスナヴィーではキリスト教徒について、クルアーン同様に、分裂し正道からはずれたと批判し、その一部が、クルアーンに「純正な一神教」と表現される本来の一神教としてのイスラームを信じ救われたと謳う。ルーミーはイスラームに則りながらキリスト教を受け入れていることが示されている。 ギリシア正教の神秘思想・ヘシュカズムにおけるイエスの祈りのあり方についても、ギリシア実施調査を含め実態が解明され、ヘシュカズムとその実践的祈りに関し、ルーミー、メヴレヴィー教団の旋回祈祷・セマーと比較し共通性を見出されつつある。以上の諸点から、本研究はルーミーのイスラーム神秘思想とギリシア正教神秘思想の比較、それに基づくイスラームとキリスト教の比較研究において、おおむね計画通り進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策として、最終年度を迎えこれまでの研究の総括を行う。研究計画に従いトルコ現地調査を行い、研究会を1回、最終シンポジウムを1回開催する。 トルコ調査は2025年3月に実施予定で、イスタンブル、アンカラ、コンヤでカライスマイルオウル・クルッカレ大学教授(マスナヴィーのトルコ語訳者)など専門家、メヴレヴィー教団の指導者をはじめとする関係者、またギリシア正教会関係者と意見交換する。特にルーミー思想の中心にある神の愛の概念とキリスト教のイエスの愛の比較調査を行う。 またトルコではズィクル、セマーの実地調査を行い、ギリシア正教の祈りとの比較を継続する。同時に比較宗教学、宗教交流論の視野から日本の宗教である仏教を含めて、アンカラ大学神学部でイスラームと他宗教の比較交流に関する講演会、研究会を開催する。 7月に開催する研究会では、イスラーム、キリスト教、仏教を比較する上記の龍谷大学社文研指定研究(代表:佐野)と共催で、当該年度のギリシア調査、および今年度出版予定の佐野・久松共編著の報告を含め、ルーミー思想とギリシア正教神秘思想の類似点の比較・整理を行い、批判をあおぐ。 以上の研究を総括し、2025年2月に最終シンポジウムを開催する予定である。同シンポでは、ルーミー思想に基づいたキリスト教との交流・対話の可能性、および他宗教、特に仏教との交流の可能性について日本内外の複数の専門家を招いて論ずる。トルコからアンカラ大学神学部の専門家を招聘し、イスラームと諸宗教との比較研究について論ずる。この結果、ルーミーやヘシュカズムの神秘思想に基づくイスラームとキリスト教の比較がどこまで可能か、またルーミーの包括主義的宗教理解・交流のあり方がどこまで有効性を持つか、等の本研究テーマの総括を行う。シンポの成果は報告書(プロシーディングス)として発行予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額21843円が生じた理由は、当該年度のギリシア調査出張費、トルコ語レッスン料が円安等の影響で当初予算を上回る見込みのため、前倒し支払請求額100000円を計上したところ、結果的に必要な費用が同請求額を下回り、余ったものである。次年度の使用計画として、トルコ調査に使用する予定である。
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