2021 Fiscal Year Research-status Report
古代哲学史研究への新たな視座──「教導」の体系に関するアウグスティヌスの洞察
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21K00084
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
上村 直樹 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (40535324)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アウグスティヌス / 教父 / キリスト教 / 古代末期 / 心性 / 精神の修練 / 自己への配慮 / 教導 |
Outline of Annual Research Achievements |
「現在までの達成度」において言及している研究計画の変更を踏まえて実行した研究の成果を部分的に取り入れて、国外においてオンライン形式によって開催された学会において発表した。そして研究者との意見交換を通して研究第二年度の研究の方向性を一層明確にすることにつとめた。 研究代表者・上村直樹はまず2021年5月に開催された古代末期の宗教・医療に関する研究グループが主宰したStandalone Conferenceにおける発表の準備において「テクスト1: アウグスティヌス「書簡」集」を取り上げ、アウグスティヌス書簡研究の最新動向について調査を進めながら「自己への配慮」と医学的な表象との連関について考察し、その成果を発表した。つづいて同じ5月末に開催されたカナダ教父学会における発表の準備において「テクスト2: アウグスティヌス「民衆向け説教」集」を取り上げ、アウグスティヌス説教研究の最新動向について調査を進めながらキリスト教的な「精神の修練」と古代末期の社会の実態との関係について考察し、その成果を発表した。そして各々の機会における研究者からの批判と意見交換を通して、テクスト1とテクスト2を相補的に検討するという本研究の妥当性について検証した。 10月後半にオンライン形式で開催された第15回台湾西洋古典・中世研究・ルネサンス研究学会における発表では「テクスト1: アウグスティヌス「書簡」集」を取り上げ、「自己への配慮」としての魂の遍歴というテーマの展開を書簡テクスト全体のなかに追跡することによって、魂論と「自己への配慮」との連関について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度にあたって研究代表者・上村直樹は、研究計画において言及した研究第1段階である2021年度に先行して取り組む課題Aと研究第2段階である2022年度に引き続いて取り組む課題Bについて、COVID-19の世界的な感染拡大状況が改善せず国外ヨーロッパにおいて実施すると計画していた文献資料調査の遂行が困難であることを踏まえて、それらの課題に取り組む順序を逆転し、先行して課題B「アウグスティヌスにおける「精神の修練」「自己への配慮」とは何かについて、テクスト1: アウグスティヌス「書簡」集とテクスト2: アウグスティヌス「民衆向け説教」集を分析する」に取り組むことに決定した。そして課題A「アドの「精神の修練」研究とフーコーの「自己への配慮」研究の孕む問題性について、アドとフーコーの主著を分析する」に関する文献資料調査の下調べを国内外の電子アクセス可能な資料によって行なうことに決定した。 以上の計画の変更に伴う課題遂行順序の入れ替えのもとで遂行した課題Bに関して、アウグスティヌスの思考の実態を「書簡」集と「民衆向け説教」集において考察し、その成果を国外の学会において発表することができた。 また研究第2段階である2022年5月にオンライン形式で開催される予定のカナダ教父学会において、「テクスト2: アウグスティヌス「民衆向け説教」集」を取り上げ、フーコー最晩年の講義録において展開され課題Bとも連動する「パレーシア」概念について考察する研究発表の申込が受理されたので、この発表の準備に着手することによって研究第1段階の後半において課題Aにも取り組むことになった。 さらに「研究実績の概要」において報告した一連の研究成果についてウェブサイトを通して周知する枠組みを制作した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の進展によって当初の研究計画において設定していた研究第3段階の課題C「アウグスティヌスにおける「教導」とは何か」を考察する準備が整いはじめていると考えられる。そこで研究計画が順調に進展していること、また依然として未確定ではあるが国外ヨーロッパにおいて実施すると計画していた文献資料調査の遂行が可能になりつつある状況を踏まえて、5月に開催されるカナダ教父学会における研究成果の発表準備と同じ5月末に開催される北米教父学会における研究成果の発表準備に集中するとともに、これらの成果を欧文学術誌に寄稿し公刊する準備にも着手する。 また研究最終年度に向けて国内外研究者との意見交換を密にすることにとどまらず、当初初年度に実施する予定であった課題A「アドの「精神の修練」研究とフーコーの「自己への配慮」研究の孕む問題性の考察」について、当初の計画には折り込まれていなかったフーコーの他の著作の分析にも取り組むことで、この課題をさらに展開する可能性を検討する。これは、宗教的な次元と世俗的な次元とが複層的に交錯している古代社会、とりわけ北アフリカ教会における心性の実態にアウグスティヌスが対処した方策の内実を検討する課題であると同時に、アウグスティヌスの「教導」について現代的な観点から再考する課題でもある。 これらの研究を推進するにあたっては、研究代表者が参画している環太平洋アジア地域の研究者ネットワークにおける情報交換の仕組みを利用する。
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Causes of Carryover |
研究初年度にあたって研究代表者は、COVID-19の感染拡大状況が改善せず国外において実施すると計画していた文献資料調査の遂行が困難になったのみならず、国際学会がオンライン形式へ変更され積算されていた「外国旅費」の使用がキャンセルされることになったので、その他の「設備備品費」と「消耗品費」についても使用計画を変更する可能性を検討した。さらに国外における文献資料調査の遂行が困難になるとともに国内大学図書館の図書貸し出し等の利用が制限されることによって、計画立案の時点では購入を検討していなかった関連図書費を想定以上に必要とした。 以上の経緯を踏まえ、引き続いて次年度における関連図書費への充当が追加で求められることも勘案し本年度の計画において購入を予定していた消耗品費の発注をキャンセルすることによって、次年度使用額が生じることとなった。
次年度の研究費の使用計画 すでに参加が決定している国際学会のために充当される研究費は基本的にオンライン形式であることを踏まえ限定的である。一方で研究計画立案時点では購入を検討していなかった関連図書費が想定以上に必要である状況は継続すると考えられる。そこで、当初予定されていた研究費の多くを図書購入のための「物品費」に充当するとともに、研究ツールとして必要なコンピュータ更新の経費を「物品費」として使用することも検討する。
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Research Products
(4 results)