2023 Fiscal Year Annual Research Report
古代哲学史研究への新たな視座──「教導」の体系に関するアウグスティヌスの洞察
Project/Area Number |
21K00084
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
上村 直樹 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (40535324)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アウグスティヌス / 教父 / キリスト教 / 古代末期 / 心性 / 教導 / 精神の修練 / 自己への配慮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨーロッパ古代哲学史研究に変革をもたらした哲学史家ピエール・アドによる「精神の修練」研究(またアドの影響下にあったミシェル・フーコーの古典思想研究)が犯した哲学史的なアナクロニズムを克服するために、その主たる研究対象であった教父アウグスティヌスのテクストを分析することによって、古代の哲学的な営為を捉える新たな視座を提起することを目的とする。この目的に向かって本研究は先行科研費研究の成果を踏まえ、つぎの三項の課題を設定しその解明に取り組んだ。 A. アドの「精神の修練」研究とフーコーの「自己への配慮」研究の孕む問題性とは何か B. アウグスティヌスにおける「精神の修練」「自己への配慮」とは何か C. アウグスティヌスにおける「教導」とは何か 北アフリカのキリスト教司教アウグスティヌスの上述の課題に関わるテクストとして『説教』と『書簡』を中心に検討し、アウグスティヌスの「教導」とは、古代ギリシア的な精神の修練という究極的な目的を設定しつつも、他方に近接的な目的として聖書解釈の方法への習熟を設定することにおいて勝義にキリスト教的な観点から規定されることを明らかにした。さらに、司牧経験を通して学んだキリスト教共同体の機能を踏まえ、アウグスティヌスが哲学的・非歴史的な空間において措定される「自己への配慮」にとどまらず、社会的・救済的な存在としての魂を導く修辞の技法に焦点を当てていることを明らかにした。 構築した国際研究ネットワークを活用し、昨年度と同じく国際学会において研究成果を発表し、さらに一部の成果を欧文誌において公刊した。パンデミックの影響によって当初の予算等の計画を修正した結果、欧文冊子体の研究報告書の作成は行っていない。本研究は、海外研究協力者との密接な協力関係をふまえ、オーストラリア、米国、カナダ、シンガポール、香港の研究者との交流を通して推進された。
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