2022 Fiscal Year Research-status Report
新プラトン主義思想の系譜におけるショーペンハウアー哲学の位置づけと意義の究明
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21K00096
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
堤田 泰成 上智大学, 外国語学部, 研究員 (30897822)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 一者 / 発出 / 還帰 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目にあたる令和4年度は、新プラトン主義の基本的な三要素である(1)最高原理としての「一/一者」(または「一性」)、(2)それからの「発出」(または「流出」)、および(3)それへの「還帰」(または「向き直り」)の思想を手がかりとしながら、ショーペンハウアー哲学におけるヘノロジー的思考を浮かび上がらせることに重点を置いて研究を行った。 これまでショーペンハウアーの物自体としての意志は現象の背後に存在する超越的実体だと誤って解釈されることもあったが、本研究では彼が意志を「一/一者」と規定している点に注目し、上記の新プラトン主義の基本的な三要素との繋がりを探った。それにより、(1)ショーペンハウアーの意志形而上学はアリストテレス的な「存在論(Ontologie, ontolgy)」ではなくプラトン/新プラトン主義的な「一者論(Henologie, henology)」の伝統に属していること、 (2)主著『意志と表象としての世界』では世界を説明する際に〈根源的なものから派生的なものへ〉という方向性が採用されているが、これは「一なる意志」からの「発出(流出)」を〈一性と多性〉の関係性という新プラトン主義的な枠組みにおいて描出したものであること、(3)さらに同書第4巻の「意志の否定」や「意志の自己認識」の思想も新プラトン主義の「還帰(向き直り)」に基礎を置くものであることがテクストの検討から具体的に確認された。そこでこうした一連の研究成果を「ショーペンハウアー哲学におけるヘノロジー的思考」という論考にまとめ、日本ショーペンハウアー協会主催の関東地区研究会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ショーペンハウアーを新プラトン主義思想の系譜に連なる哲学者として理解し、新たなショーペンハウアー像を打ち立てることを目指す本研究にとって、新プラトン主義の特徴である「一者」・「発出」・「還帰」という三要素が彼の哲学においてどのように展開されているのかを解明することは最重要課題の一つと言える。本年度はこの課題に正面から取り組み、その成果として「研究実績の概要」に記したようなショーペンハウアーと新プラトン主義との具体的な繋がりをテクスト上から見出すことができた。今後はこの研究成果を土台とし、両者の影響関係の更なる解明が望めることから、進捗状況としてはおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果からショーペンハウアー哲学のうちに内在しているヘノロジー(一者論)的思考をある程度浮かび上がらせることができたため、今後はショーペンハウアーがこうした新プラトン主義的なモチーフや枠組みを具体的にどの思想家のどのテクストから受容していたのかを解明することが当面の課題となる。また昨年度に引き続き、ショーペンハウアーにおける宗教・神秘主義の位置づけを究明することで、彼の超越論哲学と新プラトン主義的なヘノロジーとの両立がどのように果たされているのかを更に深堀りしていくことが目標となる。そこで、次年度以降も継続して文献・資料の収集と調査に努めるとともに、学会発表をこれまで以上に積極的に行い、成果発信と意見交換の場としてうまく利用していくことで、研究の一層の推進を図りたいと考えている。
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Research Products
(4 results)