2022 Fiscal Year Research-status Report
ラカンにおけるフロイト理論の受容と展開の思想史的再検討ー反還元主義という視座から
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21K00104
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Research Institution | Baika Women's University |
Principal Investigator |
河野 一紀 梅花女子大学, 公私立大学の部局等, 講師 (30738050)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ジャック・ラカン / ジークムント・フロイト / マルセル・モース / クロード・レヴィ=ストロース / 精神分析 / 反還元主義 / 文化人類学 / 認識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度も引き続き、反還元主義という視座がラカンの思索の展開に与えた影響について研究をおこなった。当初の研究実施計画では、精神分析家の養成・訓練にかんしてフロイトとラカンの立場の異同を示すこと、パス構想の認識論的射程を明らかにすること、ジョイス論の検討を通じて無意識と症状についての概念的更新の意義を検討することを予定していた。 しかし、前年度の研究成果を受けて、計画に若干の変更が生じた。ラカン自身も批判していた精神分析の無意識概念が、いかにして反還元主義に基づく構想へと受け容れられたかを理解するために、マルセル・モースとクロード・レヴィ=ストロースからの影響を検討することが必要と考えられたためである。そこで計画を一部変更し、両者の仕事がラカンに与えた影響を重点的に検討することを念頭に、次の3つの研究をおこなった。①モースの仕事および、レヴィ=ストロースによるモースの著作への「序文」の読解を通じて、ラカンが主体の構造的決定という考えに至った道筋を描出した。これについては、追手門学院大学学生相談室紀要に論文として発表した。②シャーマンと精神分析家を対比させて論じたレヴィ=ストロースの仕事がラカンに与えた影響について、とりわけ無意識概念の受容、精神分析の科学性という観点から検討した。これについても、追手門学院大学学生相談室紀要に論文として掲載予定である。③ジョルダーノ・ブルーノとジェイムズ・ジョイスから引き継がれる異端というテーマが、1950年代と1970年代の2つの時期のラカン理論におけるR.S.I.の三つ組の位置づけにどのようなかたちであらわれているかを明らかにした。これについては、日本ラカン協会の機関誌に論文として発表した。 以上の研究成果を踏まえて、2022年度は若干の計画の変更があったものの、全体としては概ね当初の計画と同等の進捗を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に引き続き、新型コロナ禍のため予定されていた海外調査が実施できなかったが、収集した文献をもとに滞りなく研究を進めることができた。当初の計画から変更が生じたために、精神分析家の養成・訓練にかんしてフロイトとラカンの立場の異同を示すこと、パス構想の認識論的射程を明らかにすることは次年度に持ち越されることになった。しかしながら、今年度の研究によって反還元主義という視座が1950年代のラカンの転回において果たした役割を明らかにできたという点で、研究全体としては一定の進捗が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度から持ち越された作業を引き続き進めていく、すなわち、精神分析家の養成・訓練にかんしてフロイトとラカンの立場の異同を示し、パス構想の認識論的射程を明らかにする作業をおこなう。 加えて、精神分析と科学との関係についてのラカンの思索の検討を通じて、反還元主義という認識論的立場がもつ現代的意義と課題について精神分析史・精神医療史の観点から検討する。さらに、反還元主義の視座から明らかになるラカンの理論的実践の意義と射程について整理し、今日の心理臨床や精神医療に対するその臨床的含意を明らかにする。
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Research Products
(2 results)