2023 Fiscal Year Research-status Report
ラカンにおけるフロイト理論の受容と展開の思想史的再検討ー反還元主義という視座から
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21K00104
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Research Institution | Baika Women's University |
Principal Investigator |
河野 一紀 梅花女子大学, 公私立大学の部局等, 講師 (30738050)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ジャック・ラカン / ジークムント・フロイト / 精神分析 / 反還元主義 / 文化人類学 / 認識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度も引き続き、反還元主義という視座がラカンの思索の展開に与えた影響について研究をおこなった。当初の研究実施計画では、精神分析と科学との関係についてのラカンの思索の検討を通じて、反還元主義という認識論的立場がもつ現代的意義と課題について精神分析史・精神医療史の観点から検討することを予定していた。 しかし、資料の整理・読解や論文執筆に想定以上の時間を要したことに加え、1940-50年代のラカンのテクストの再検討を行ったため、当初の計画からの変更が生じた。結果的には次の3つの研究をおこなった。①前年度の研究を引き継ぎ、シャーマンと精神分析家を対比させて論じたレヴィ=ストロースの仕事がラカンに与えた影響について、とりわけ無意識概念の受容、精神分析の科学性に注目して検討した。これについては、追手門学院大学学生相談室紀要に論文として発表した。②ラカンのテクスト「心的因果性についての提言」(1946)の読解をおこなった。本テクストは、学位論文から出発したラカンが1953年に「フロイトへの回帰」を唱えるに至るまでの過渡期に位置づけられるものであり、その読解によってラカンにおける精神分析の受容についてより明瞭な理解が得られた。これについては、日本ラカン協会連続セミナー「『エクリ』を読む」第3回にて発表した。③ラカンのテクスト「フロイト的物、あるいは精神分析におけるフロイトへの回帰の意味」(1956)の読解をおこなった。本テクストは、1953年以来「フロイトへの回帰」というスローガンのもとでおこなわれてきたラカンの教えの概要を対外的に示す講演が元になっており、その読解によって精神分析家としてのラカンのオリエンテーション、とりわけ米国の自我心理学に対する立場と精神分析史のなかでのその意義が明らかになった。これについては、日本ラカン協会連続セミナー「『エクリ』を読む」第8回にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先述の通り、当初の計画からの変更があったために、全体として当初の予定から進捗は遅れている。とはいえ、1940-50年代におけるラカンの理論形成を詳細に検討し、精神分析史におけるその位置づけを確認することができたことから、研究全体としては一定の成果を得ることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ラカンにおける精神分析と科学の関係、さらには、分析家養成と学派の問題について、1950-60年代の議論をもとに検討する。また、本研究の総括として、反還元主義の視座から明らかになるラカンの理論的実践の意義と射程について整理し、今日の心理臨床や精神医療に対するその臨床的含意を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究遂行に想定以上の時間を要したために、補助事業期間を1年延長した。研究発表と論文作成にかかる費用として支出予定である。
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