2021 Fiscal Year Research-status Report
18世紀後半のドイツにおけるヴィンケルマン受容と古代ギリシア・イメージ形成
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21K00106
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
濱田 真 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50250999)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | C.G.ハイネ / J.G. ヘルダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、18世紀後半のドイツのヴィンケルマン受容において重要な意味を持つC.G.ハイネとJ.G.ヘルダーに注目して、両者のヴィンケルマン受容の特徴の比較考察を進めた。ハイネについては『ヴィンケルマン賛辞』(1778年)を精読し、同時に彼のゲッティンゲン大学での講義録『古代研究についての講義』(1775年)にも目を配りながら、ハイネがヴィンケルマンの古代美術史研究に対してどのような立場をとったのかを探った。ヘルダーについては、『批評論叢』(1769年)、『彫塑』(1778年)、『ヴィンケルマン記念碑』(1778年)を取り上げて、ヘルダーのヴィンケルマン批評の独自性について考察を進めた。 現在ではヴィンケルマンは、古代美術史研究の創始者として古典主義芸術理論の基礎づけを行った人物であると同時に考古学の土台を固めた人物としても知られるが、18世紀後半のヴィンケルマンの初期受容段階においては、この二つの側面が必ずしも整合的に共存していなかったことが確認できた。すなわち、ハイネはヴィンケルマンの著述に見られる文学的な表現には批判を加え、歴史学的な観点から学問的正確さの不備も指摘しているが、古代史の体系的記述への意図を高く評価し、そこに学問としての考古学の萌芽を見出している。一方でヘルダーは、ヴィンケルマンの叙述の文学的な豊かさに積極的に目を向けており、ヴィンケルマンの著述を静的な学問的体系としてよりも、美術作品鑑賞における解釈学的方向から読み取ろうとしている。ハイネとヘルダーのヴィンケルマン評価の相違を考察することで、18世紀後半以降のドイツにおけるヴィンケルマン受容が、一つの方向に収斂せずに、むしろ歴史学的・考古学的方向と、美学的・芸術論的方向という異なる方向へと分化していくことになったのではないかという見通しを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の基礎固めとして、ヴィンケルマンの作品(特に『ギリシア美術模倣論』および『古代美術史』)の分析、およびC.G.ハイネとJ.G.ヘルダーにおけるヴィンケルマン受容の特質についての考察を進めることができた。ヘルダーについては、彼の複数の著作において、ヴィンケルマン受容のあり方との関係でどのような古代ギリシアイメージが見られるかに関しても考察を進め、ハイネについては、古代研究の文脈におけるハイネとヴィンケルマンの関係を調査すると同時に、ハイネがヘルダーに与えた影響についても考察を行った。 ハイネ、ヘルダーと並んで、ラーヴァーター、モーリッツ、ヒルト、ゲーテにおけるヴィンケルマン受容の特質についても、今後考察すべき問題点のおおよその見通しを得ることができた。この点は、次年度以降の研究の下地になるものとして評価したい。 さらに、18世紀後半において、美術作品や美術作品についての言説がどのような伝達媒体によってどのような人々に受容されたのかという、メディア論的な側面についての調査も進めた。受容史的な考察を行う場合に、個別の思想家の思想や作品の分析だけでなく、時代のメディア的特徴について見通してを立てておくことは、イメージ形成という問題を考える上で重要である。この意味で、今年度の調査は今後の研究の土台となるものとして肯定的に評価できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目は、ヴィンケルマンの『ギリシア美術模倣論』と『古代美術史』の精読と並行して、ハイネとヘルダーのヴィンケルマン受容の特質について考察を進めた。これを踏まえて、以下の点を中心に研究を推進する予定である。 1) ヴィンケルマンにおいて理念的な美とアレゴリーの問題がどのように論じられているかを、彼の『アレゴリー試論』に注目して精査する。美の理念とアレゴリーの問題がその後、ヘルダー、ラーヴァーター、モーリッツにおいてどのように論じられているかを彼らのヴィンケルマン受容と関連づけて探る。 2)ヴィンケルマンは「輪郭線 Kontur」に芸術作品の感覚性と理念性を橋渡しする役割を認めたと考えられるが、「輪郭線」の議論の詳細を、彼の諸著作に即して精査する。同時に「輪郭線」の問題がその後のドイツでどのような視点から論じられることになるのか、当時の感性論の議論を参照しながら探る。 3) 古代美術作品やそれについてのヴィンケルマンの言説がどのような雑誌や書物を通して当時のドイツ語圏の人々に伝えられたか探ることによって、古代ギリシアイメージ形成の問題をメディア論的観点からも探る。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため予定していた調査ができなかった。そのため、調査関係の機器の購入も見合わせることになった。次年度は、コロナ感染の状況にも注意しながら、1年目に行うことができなかった調査を進め、そのために必要な物品等を購入する予定である。
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