2022 Fiscal Year Research-status Report
The Possibility of Media Archaeology and its related concepts such as Topoi
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21K00129
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
太田 純貴 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (90757957)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ユッシ・パリッカ / メディア地質学 / メディアと環境 / メディアの物質性 / 未来の化石 / メディアアートと地球 / ブライアン・マッスミ / 針尾通信所 |
Outline of Annual Research Achievements |
Jussi Parikkaの著作A Geology of Media(Minnesota Press, 2015)を翻訳し、ユッシ・パリッカ『メディア地質学』(フィルムアート社、2023年2月)として出版した。 メディア考古学という方法論を提唱したエルキ・フータモやジークフリート・ツィーリンスキーらをメディア考古学第一世代とすれば、パリッカはその後の世代に位置する。同著作はフリードリヒ・キットラーやヴォルフガング・エルンストらの議論を引き継ぎながら、メディア文化における地球・物質・環境や、それらから導き出される、メディア文化において作動する長大な時間スケールへの目配りの必要性を主張する。本書は、このような意味でメディア文化論における非人間的転回を推し進めようとする著作である。パリッカの著作は論文では邦訳があるものの、単著の訳出は国内初である。本著作の訳出は、非人間的な要素を取り込んだ人類学や哲学と、メディア理論やメディア文化をめぐる事例を交差させるための足場のひとつともなるだろう。 同書の出版に関連して、第38期第29回研究会「メディア地質学と未来の化石 デジタル文化の地層を採掘する(『メディア地質学』書評会)」(理論研究部会、3月11日開催)に招待いただき、同書の報告を行うことができた。その際、未来を想像することにおいて、パリッカとブライアン・マッスミが接続する可能性を提示した。 以上と並行して、メディア考古学の射程と可能性を具体的に検討するための事例・足場となると思われる、佐世保にある針尾通信所(旧佐世保無線電信所)や、松本喜三郎の生き人形、九州のからくり人形と文化についても調査を行った。 また、派生的な成果として、平芳幸浩編著『現代の皮膚感覚をさぐる』(春風社、2023年)に、プラスチック/可塑性という観点からマンガを分析する論考を寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスの影響により、当初予定していた海外での調査やイベント等への参加や、海外の研究者を招聘したワークショップの開催を断念せざるを得なかった。 その一方で、数年間にわたり取り組んできたJussi ParikkaのA Geology of Mediaの翻訳が完成した。同著作は、メディア文化やメディアアートを、地質学的時間や地球といった非人間的な(時間)スケールや視点から捉えようとする試みと見なすことができる。その意味で、同著作は、メディア文化やメディアアートを人間との関わりを中心に論じてきたエルキ・フータモの議論と対照的である。ゆえに、同書は、フータモの議論や従来のメディア考古学の議論の射程を逆照射できる可能性があると思われる。 以上の理由より、当初予定していた海外調査は進展していないものの、メディア考古学の展開を抑えるための視点は確保したという意味で、研究の進捗状況は(3)やや遅れている、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
メディア考古学のパイオニアであるエルキ・フータモの議論の射程を、パリッカの議論と比較しつつ、明確にしていく予定である。その際はフータモのメディア考古学理論の要諦となる「トポス概念」の来歴、メディア考古学における「分岐」(diversification)という発想などについて特に着目して、研究を進めていく予定である。 並行して、メディア考古学の土壌のひとつとしてのサイエンス・フィクションを捉えることの可能性・有効性について検証していく予定である。加えて、フータモの議論に影響を受けた次世代のメディア考古学の議論の展開についても精査していく予定である。そのために、Wanda Strauvenなどの議論を取り上げる。オランダにおけるメディア考古学の展開を支えたトマス・エルセサーからの影響も垣間見えるStrauvenの議論の検討を通して、メディア考古学に対するエルセサーの影響を論じる土台の構築も試みたい。 また、メディア考古学の理論的射程を具体的な事例に即して検討するために、九州におけるメディアテクノロジー文化・視覚文化の調査・分析もさらに進めたい。その際には、従来の成果をもとに田中久重、松本喜三郎らを継続して焦点とする予定である。
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Causes of Carryover |
前年度よりは緩和されたが、コロナ禍のため海外での調査やイベント参加に制約がかかり、かつ、海外の研究者を招聘したワークショップ等の開催が困難であったため。その分、学会等がオンラインで開催されることも多く、旅費関係の支出が低くなったため。次年度は、今年度以上に学会やイベントの対面開催が増加することが見込まれるので、それらに助成金を使用予定である。海外の研究者を招聘したワークショップの開催にも助成金を使用予定である。 また、国内外での調査や、研究会や学会で発表するための資料等の作成に必要な機材を購入予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Book] メディア地質学2023
Author(s)
ユッシ・パリッカ、太田純貴
Total Pages
352
Publisher
フィルムアート社
ISBN
9784845919291
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