2021 Fiscal Year Research-status Report
Art Education in Victorian Era--Relationship among Technology, Education and Industry
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21K00133
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
横山 千晶 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (60220571)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ジョン・ラスキン / 唯美主義 / ウィリアム・モリス / ロイヤル・ウィンザー・タペストリー / モリス商会 / ストリート・アート / パンデミック / ダヴコット・スタジオ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究は、感染症の影響で予定していた海外での調査は行えなかったために、資料中心に研究を進めていった。そのうえでの研究実績は3点である。一つ目は2020年の日本ヴィクトリア朝文化研究会の全国大会での発表にさらなる調査を進めた論文の執筆。二点目は国際学会ACDHT(オンラインによる開催)での発表。三点目は意匠学会のデザイン史分科会のウィリアム・モリス研究会での発表である。3つともこの度の研究テーマ、19世紀芸術教育の諸相とその関連性に異なる光を当てたものである。 一点目は唯美主義との関連から19世紀の芸術教育を捉えたものであり、「モリス商会の設立と職工たち――美を伝えるということ」の題名の下に『ヴィクトリア朝文化研究』第19号に掲載された。19世紀の唯美主義の流行に反抗して、ジョン・ラスキンは「美」の感覚を動物的な快感(エスセーシス)と道徳的な美的感覚(テオリア)とに区別した。そして観察力の訓練と実地経験によって後者を鍛えることで、公共的なテオリアへと導く重要性を解いた。その実践の場が1854年設立の労働者大学の素描クラスであった点を本論文では明らかにしていった。 そして二つ目の「アジアデザイン史論国際学会」では"Street Art as Public Art: Its New Role in the Pandemic Era"の題名のもとに、パンデミックの中でロンドンのストリート・アーティストたちが主導するコミュニティづくりと教育の根底にウィリアム・モリスの思想があることを、ウォルサムストウの町を例として挙げて分析した。 三点目の発表、「モリス商会とDovecot Studios――マートン・アビーとスコットランドのタペストリー制作」では、モリス商会でのデザイン教育の在り方が、その後いかにスコットランドのタペストリー制作に影響を与え、現在に至るのかを跡付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では初年次にエジンバラのダヴコット・スタジオを訪れ資料調査を行う予定でいた。モリス商会からダヴコット・スタジオに招聘されたデザイナーたちの作品、およびスタジオが所蔵する初期の徒弟たちの練習制作品から、この目でモリス商会の徒弟教育の影響を調べる計画だったが、感染症のためにそれは叶わなかった。しかしながら、資料調査からおおよその推論を構築することができたので、2022年度こそは実地での調査を行い推論の証明を行いたい。 また本年度の夏に発表した現代のストリート・アーティストへのウィリアム・モリスの影響も、モリスの生地でありストリート・アートの町として、若いアーティストたちを積極的に呼び込み、共にコミュニティづくりとアートを通した若者の教育を推進しているウォルサムストウでの実地調査を行ってから論文化することを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年の夏以降にロンドンとエジンバラを訪れ、研究計画初年次に行う予定でいた実地調査を進め、2021年度に発表した業績を論文化することが第一の目標となる。二年目に行う予定でいたトインビー・ホールでの芸術活動についても同時並行で進める。 特にパンデミックを経験した今では、危機的状況の中での芸術の意義、というテーマは研究でも実践でも重要なものとなる。トインビー・ホールは特に社会的弱者を支える機関として19世紀に立ち上がった福祉・教育機関であり、今でもその役割を担っている。パンデミックを経ることで、19世紀設立当初の芸術教育は、どのように形を変えて21世紀に受け継がれているのか、パンデミックの中でのその役割は何かをぜひとも調査したい。 19世紀の芸術教育の現代での意義は、モリス商会の技術と真髄を20世紀初頭にエジンバラで花開かせ現在に至るダヴコット・スタジオでも、ウィリアム・モリスの芸術に対する思想を若いストリート・アーティストの活動を通して目に見える形に変換しているウォルサムストウでも共に重要なテーマとして調査すべきものである。パンデミック、そしてポストパンデミックの芸術の意義の源を19世紀に求めて、今後の研究に臨みたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症により海外渡航が不可能となり、国際学会もオンラインとなったために、フィールドワークと海外での学会発表のために計上していた旅費が使用できなかった。またフィールドワークに使用する予定で購入を計上していたカメラもフィールドワークの実施不可のために購入しなかった。今後研究計画2年目に、1年目に計画していたエジンバラとロンドンでのフィールドワークを、2年目に予定していたロンドンでの調査に加えて行う予定である。また、国際学会に関しても対面での実施となった時は、感染に注意して参加するつもりである。
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Research Products
(3 results)