2023 Fiscal Year Research-status Report
Landscape and the aesthetics of modern melancholy
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21K00139
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
仲間 裕子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (70268150)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | メランコリーの美学 / 風景 / 自然と人 / ドイツ・ロマン主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は4月と5月にハーバード大学で近代の風景表象とメランコリーについて引き続き調査を継続し、5月にはロッテルダムのエラスムス大学で開催された国際シンポジウム「新人世における人間の立場とその条件:自然、文化、テクノロジー」において、これまでの「風景と近代のメランコリーの美学」研究を反映させ、新人世と呼ばれる自然消失の時代に人類が抱く危機を、批判性を帯びたメランコリー的美学から報告した。また、10月にはミュンヘン中央美術史研究所でセミナー・レクチャーを行い、本研究の対象である近代ドイツの画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの《四季と人生の循環》ついて講義し、春から冬への自然の変遷に倣う幼児から老人の人間の生の循環にメランコリー思想が通底していることを示した。また、ドレスデン国立美術館から依頼され、8月から当美術館で開催されるフリードリヒ生誕250年記念展覧会カタログに岸辺と海とそれに続く彼方を描いた風景画は、死と永遠への内省の表現であることを明記した。 メランコリー思想に関連して、美術史においては16世紀の画家、アルブレヒト・デューラーの作品《メレンコリアI》は「思考絵画」として解釈され、「反省と主体」(ハルムート・ベーメ)、「多様な矛盾を担う存在としての人間を示す」(ブリギッテ・シュルテ)と分析されてきたが、一方でロマン主義のフリードリヒに関してはセンチメンタリズムの美術と考えられてきた。しかし、これまでの調査によって、同画家の風景画が代表作の《海辺の修道士》にみるように、不可知なるものを探求しようとする主体的なメランコリーの表象であり、このフリードリヒの芸術観が現在のアーティストにも影響を与えていることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた調査は、ハーバード大学、ミュンヘン美術史研究所で進んでおり、メランコリー的世界観は当初考えていた19世紀の風景画に留まらず、とりわけ戦後のアーティスト、ヨーゼフ・ボイスやアンゼルム・キーファーなどの風景表象に継承されており、今日のさまざまは社会現象における「危機」の時代の根底にメランコリー思想があることを理解した。近代、現代において自然と人間の関係は複雑に交差し、より社会的・政治的側面が反映されているといえよう。欧州の大学や研究所での報告、また美術館展カタログへの寄稿など、海外での業績は当初予定していなかったが、研究テーマにより一層、根源的なテーマとしてのメランコリーに向き合う機会を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度には引き続きドイツでの調査を継続し、資料文献調査を中心にメランコリーの歴史、思想と風景との相互関係を考察する。ベルリンとドレスデン国立美術館で開催されるフリードリヒ展を見学するだけでなく、ベルリン国立美術館館長、ラルフ・グライス氏とドレスデン国立美術館主任キュレーター、ペトラ・クールマン=ヘディケ氏を訪ね、メランコリーをテーマに意見の交流を行う予定である。当年度に予定していた立命館大学国際言語文化研究所共催のカンフェレンスは海外の発表予定者の都合で2025年度に延期されるが、数回の研究会を開き、シンポジウムに向けて議論を進めていきたい。
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