2022 Fiscal Year Research-status Report
近代日本画の歴史的展開の究明ー日本画家荒井寛方の生涯と作品を手掛かりに
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21K00153
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Research Institution | Kyoto University of the Arts |
Principal Investigator |
三上 美和 京都芸術大学, 芸術学部, 准教授 (90531640)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近代日本画 / 風景画 / 荒井寛方 / 日本美術院 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度から継続し、荒井寛方の初期画業の検討を行った。特に前期の代表作《暮れゆく秋》(日本美術院再興第1回展出品、1914年、さくら市ミュージアム‐荒井寛方記念館蔵)を取り上げ、作品調査、フィールドワークを行い本作品の制作背景を解明した。 本作品は寛方が展覧会に出品した唯一の風景画であったが、歴史人物画をそれまで専門に描いてきた寛方がなぜこの時風景画を選択したのかについては、これまで全く検討されてこなかった。しかしながら、《暮れゆく秋》以降、寛方は生涯を通じて日本美術院を活動拠点とすることになったことからも、相当の覚悟で臨んだことが伺われる。本作品は寛方の前期から後期の転換期に当たることからも、その背景の解明は重要な課題である。 本作品を分析したところ、そこには前期日本美術院の画家たちの風景表現の影響が見いだされた。彼らは近代日本画の風景表現を開拓してきたことから、寛方も院展作家たちの風景画の流れに自らを位置づけようとした様相が見られた。 また本作品のモチーフには俵屋宗達の作品からの影響も見られた。宗達再評価のさきがけとなった展覧会が大正2年に開催されていることから、寛方が宗達の作品を見た可能性は十分ありうることも判明した。以上のことは同時代の寛方の芸術論には院展作家に対する高評価と、古典学習の重要性が語られていたことからも裏付けられた。 さらに、寛方がスケッチを行った熊野古道を実地調査した。スケッチに記された内容を手掛かりに調査を進めたところ、寛方が熊野本宮大社を訪れたことものの、《暮れゆく秋》に描かれた社殿は熊野本宮大社ではなかったことが明確になった。熊野本宮大社付近に本作品と近い社殿が確認されたことから、寛方は実在の社殿からインスピレーションを受けつつ、具体的な描写を避け、深まりゆく秋を描こうとしたという結論を得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度はほぼ予定通り進めることができたが、昨年度はコロナ禍で特に関係者のインタビュー、現地調査を行うことができなかったため、やや遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
前半は前年度までに得られた研究成果を論文にまとめ公表する。 後半はこれまでに行う予定であった寛方を支援した人々の子孫を中心としたの関係者の取材を最優先し、寛方の支援者についての調査を進めることでこれまでの遅れを挽回したい。
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Research Products
(1 results)