2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K00162
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Research Institution | The National Museum of Modern Art,Kyoto |
Principal Investigator |
宮川 智美 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 研究員 (10770886)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 近代工芸 / 近代陶芸 / 現代陶芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
・陶芸家の新宮さやかの個展に際し、制作手法に関する説明と、転換点を意識している作家の制作に対する現在の意識について、インタビューを中心に記録した。立体造形と器のかたちをした作品の双方を制作する一方で、制作上のテーマには一貫性が見られることを指摘した。 ・陶芸家の市野雅彦が鉄を素材に取り組んだ彫刻について、作品設置に立ち会った。刊行者の都合により公開が遅れているものの、これについて作家へのインタビューを中心に記録した。これまで陶による立体造形の作家として知られていた市野が、鉄という異なる素材を使用することで、かえって陶芸の素材の特性を理解する機会にもなったことを指摘した。また、彫刻家の坪田昌之と一緒に制作することで、台座に用いる石など、自然の素材を加工する程度についても論点になったことは興味深い。素材とその造形の展開に加え、そこに「物語」を付与する工芸の語りは、産業及び芸術の両面に見られるものとして、今後も注意して見ていきたい点である。 ・陶芸と似た動向として、用途を持つ道具から、芸術的な表現へと変化が見られたテキスタイル・アートの20世紀後半の動向について、フィンランドの個人コレクションを具体的な例としながら、その歴史的な記述方法について考察した。生活に根ざした技法を用いながらも、現代では個人作家の作品として制作されている作品は、日本の伝統工芸とも通ずるもので、時代の変化に合わせて、デザインや制作方法が変化しながら制作され続けてきたことを跡付けた。同時に、日用の道具として扱われていたものの延長上に、現代作家の表現を位置付ける歴史記述についての恣意的な側面を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現役の陶芸家について、調査とその成果の公開は継続的におこなうことができているが、当初の予定に比べて断片的な実施になっている。また、計画していた隆盛期の作家たちの教え子世代に対するインタビュー及び調査は少々停滞しており、資料を体系的に収集して、進めていきたい。 一方で、陶芸と似た動向をみせる、テキスタイルをはじめとした異なる素材の表現については、工芸を論じる上で関連することも多いなか、資料調査の機会に恵まれて視野を広げることができた。また、英国で行われた工芸の無形遺産に関するコンフェレンスに出席し、日本での研究枠組みを相対化するような議論に触れることが出来たのは有意義だった。
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Strategy for Future Research Activity |
・現代陶芸を論じる上で基礎的な資料となる1950年代から70年代の日本の動向について、改めて資料を整理することで、現代の工芸についての議論の前提を確認しておきたい。 ・陶芸に限らない隣接領域への広い視野を保ち、似た動向や、作家同士の直接の交流に注目していきたい。
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Causes of Carryover |
年度末に海外でのコンフェレンス出席を伴う調査を実施したため、会計上の支出時期にずれが生じているが、同調査旅費の支出によって実質的に次年度使用額は生じないことになる。
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