2022 Fiscal Year Research-status Report
九州北部の霊山の尊像と交流の諸相の研究―神仏・中央と地方・日中の関わりを中心に―
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21K00164
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Research Institution | Kyushu Historical Museum |
Principal Investigator |
井形 進 九州歴史資料館, 学芸調査室, 研究員(移行) (60543684)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 霊山の尊像の基礎資料 / 神仏習合と浄地たる霊山 / 九州の山の大陸渡来文物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、九州北部の霊山に伝わる、尊像を主とする文物を調査し、山と神仏習合、地方展開、大陸渡来文物受容等の問題について、考察の深化を図るものである。2021年度においては、九州北西部の重要作例の精査を重ね、その成果を反映させた特別展を開催したが、その際、山が神仏など異なる存在を結ぶことができるのは、一つには、そこが双方が求める浄地だったからだと考えた。しかしもちろん、他にも様々な要素が関係していると思われ、2022年度はそれを意識しつつ調査研究を進めた。作品調査については、福岡県内では、宗像市鎮国寺奥の院の秘仏石造不動明王立像、久留米市朝日寺の神子栄尊像、高良山伝来の可能性がある福聚寺の聖観音立像の精査等を、県外では長崎県諫早市天祐寺の傅大士像の精査、鹿児島県の薩摩塔に刻まれた尊像の改めての確認調査等を行っている。神子栄尊像は既に周知の作例であるが、従来構造等の詳細は明らかでなかったため、九州国立博物館の協力を受けてX線CTスキャナによる調査を行ったものである。九州の霊山における渡来文物移入には、入宋僧が小さからぬ役割を果たしたことが想定され、中でも最近は、異なる個性と経歴をもった重源や神子栄尊に注目している。彼らを通して渡来文物の移入や、山での受容について立体的に浮かび上がらせたいと考えている。まずは九州北部に広く足跡を残す神子栄尊から進めるが、重源については、中央と地方の交流の観点からも重要な存在だと目され、続けて取り組みたい。調査の他、九州北部の霊山の様相を他地域と比較して考えるべく、関東、関西、山陰の霊山や聖地の視察も行っている。2022年度においては、2021年度に行った調査研究の流れを受けて作品調査を続けながら、列島内における比較や、大陸との結びつきのあり方について改めて考えてみた。それは最終年度における調査研究と、その報告の方向性を具体的に見定めるためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に力を入れるべく考えていた、尊像が刻まれた石造物を中心とする、九州北西部の霊山に所在する大陸渡来文物の調査については、鹿児島に所在する作例を中心に再検討を行い、論文の形で公刊こそしていないものの成果を蓄積できている。また2023年度に行うべく考えていた自然科学的調査についても、朝日寺の神子栄尊像のX線CTスキャナを用いた調査などを行い既に成果を挙げている。ただしこのように先取りした調査もあり、また新たな情報や調査機会を得たことにより迅速に行った調査もある一方で、当初予定していた英彦山や求菩提山などの調査や、それを通した九州における東西の相違とその背景の考察開始は、未だコロナウイルスの影響も少なからず、交渉等準備こそ進めながら実査は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、九州北部の霊山に伝わる、尊像を主とする文物を調査し、山と神仏習合、地方展開、大陸渡来文物受容等の問題について、考察の深化を図るものである。そのための実査を重ね、資史料と研究を蓄積して、今後の研究基盤を形成するべく考えているものであるが、その成果を報告書の形で公刊して、広く共有することも必須だと考えている。それにあたっては、そもそもは九州北部の山岳霊場遺跡にかかる論考と重要作品資料集をあわせた内容を想定していたものの、調査したすべての作例を収載する大部な報告書刊行は現実的ではなくなり、そこで、研究成果を反映して編んだ特別展図録『九州山岳霊場遺宝―海を望む北西部の山々から―』と相補うことで当初想定した内容を満たし、研究課題に応えるような報告書を刊行することとしたい。具体的には、輪郭を示す論考と、九州北部の西と東の文物が集中する霊山の尊像を対比的詳細に報告し、そしてそれらにかかる論考を収めるものとする。中心に取り上げるべく考えているのは、平安古像を豊富に遺す若杉山と求菩提山である。これまで通り九州北部全体の調査研究を進めながらも、2023年度は報告書を意識しつつ、九州北部の西と東を代表するこれらの山の尊像の未調査作例を年度の前半までを目途に調査し、年度の後半は補足調査や報告書の作成に充てるべく考えている。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響か、価格が高騰した物品や経費があった一方で、変わらず国外に出ることが困難であったため、当初予定していた中国や韓国における調査は実施できなかった。次年度使用分が生じた主たる理由は、そこに帰することができる。2023年度に入り調査研究の環境は改善しているものの、国内における調査や他の業務との兼ね合いで、今から海外調査を行うことは難しい可能性がある。その場合は、国内における実作例の調査をさらに増やし、また、報告書の内容を充実することで、助成金を有効に使用できるようにしたい。
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