2023 Fiscal Year Research-status Report
九州北部の霊山の尊像と交流の諸相の研究―神仏・中央と地方・日中の関わりを中心に―
Project/Area Number |
21K00164
|
Research Institution | Kyushu Historical Museum |
Principal Investigator |
井形 進 九州歴史資料館, 学芸調査室, 研究員(移行) (60543684)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 山の尊像の調査研究 / 重要作例基礎資料作成 / 山と大陸渡来石造物 |
Outline of Annual Research Achievements |
九州北部の霊山に所在する尊像等の精査を重ね、並行して畿内等他地域の霊山の様相について確認調査を行った。作品の精査について目立つものを例示すると、福岡県宗像市鎮国寺奥の院の平安時代後期の石像不動明王立像、熊本県山鹿市康平寺の平安時代前期の地蔵菩薩立像、山口県山陽小野田市菩提寺山の奈良時代の可能性がある磨崖聖観音立像等がある。また福岡県糸島市の浮嶽神社所蔵文書の整理と調査も始めた。同文書は幕末から近代にかけてのものであるが、浮嶽周辺における神仏分離前後の様相について、具体的に検討してゆく上で重要な資料となるものである。霊山に所在する大陸渡来石造物に関しては、長崎県大村市宝円寺から新たに確認された薩摩塔の精査を行った。多良岳の西麓にあり元時代のものと推定されるこの薩摩塔については、九州歴史資料館研究論集において報告を行った。また精査には至っていないが、長崎県諫早市にて四面菩薩の石像について存在を確認したことも、ここに加えておきたい。四面菩薩は雲仙岳の神であり、先に、もと四面宮(現在の諫早神社)安置で神仏分離後は天祐寺に安置される、宝永2年(1705)制作の像について九州歴史資料館研究論集等で報告を行っていたが、今回希少な四面菩薩の作例を新たに確認することができた意義は大きい。そしてこれらのような調査と並行して、金峯山寺周辺のあり方の確認調査のために奈良県を、薩摩塔をはじめとする大陸渡来石造物のあり方への理解を深めるべく長崎県平戸を、また福岡県宗像市宗像大社の阿弥陀経石の研究を深化させるために模刻がある京都府を訪問するなどしている。当初想定していたより調査対象や調査地域は広がっているものの、一方で、重点的な調査研究の対象としている福岡県糟屋郡若杉山や福岡県豊前市求菩提山では、予定しながら調査を行えなかった作例がある。最終年度には必要な調査を完了して充実した報告書を刊行したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初想定していたより調査対象や調査地域が広がったことにより、もともと重点的に進める予定であった場における調査が遅れ気味となった。これにはまた、当初予定にはなかった、長崎県による蒙古襲来(文永の役)750年事業関連の調査やシンポジウム、あるいは九州歴史資料館の開館50周年事業、首羅山遺跡指定10周年関連の調査やシンポジウム等、文化財関連のいくつかの周年事業に大きく関わらざるを得なかったことも影響している。館内における職員の異動等にかかる業務負担増もあった。これらのことにより、十分な水準で必要な調査と研究を完了することが困難だと判断したために、研究期間を1年延長して、いくつかの不可欠な調査と報告書作成を次年度に行うこととしたものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
福岡県内はもとより九州北部においても、平安時代後期の仏像の密度の濃さで知られ、本研究において重要な研究対象としている福岡県糟屋郡若杉山と福岡県豊前市求菩提山には、精査を行っていない作例が未だ遺されている。それらを調査して充実した報告書の作成を行いたい。なお、このことを実現させるだけであるならば、さしたる困難はないと考えているものの、せっかく研究期間を延長したのであるから、可能であればもう一段、調査研究を深化させたい。研究期間を延長する大きな要素となった、当初想定していたより調査対象や調査地域が広がったことについては、本研究にとってむしろよいことであると考えるので、最終年度は可能な限り、広がった世界を深めることができればと考えている。
|
Causes of Carryover |
予定していた必要不可欠な調査のいくつかを先送りしたこと、それに伴って報告書の刊行も先送りして、研究期間を1年延長したことにより、次年度使用額が生じたものである。まずは必要不可欠な調査を速やかに行い、その他為すべき調査研究を進めた後に、報告書原稿作成と刊行に進むなどして、最終年度に適切に使用する予定である。
|