2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00183
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Research Institution | Nagasaki Junshin Catholic University |
Principal Investigator |
浅野 ひとみ 長崎純心大学, 人文学部, 教授 (20331035)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | キリシタン / 信仰具 / アグヌスデイ / メダル / 苦行鞭 / プラケット / 真鍮 / デヴォチオ・モデルナ |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナ感染症の流行により、県境をまたいでの出張を避けるよう県から指示があり、海外はおろか福岡までも行けず、当初予定していた国内外での調査はまったく行えなかった。そのため、主として文献資料を中心に初期キリシタン時代に日本にもたらされたキリシタン信仰具に関して考察した。 宣教師の書簡を中心とする文献史料は、何度も外国語に翻訳され、編纂されていく間に記述が変わってしまい、ことに信仰具に関わる部分は、書き手の知識の範囲で名称が充てられるため、不確実な表現となっていることが多い。それをできる限り、一次史料にあたって正確を期すのが最初の作業だが、オリジナルの書簡を欠いているものもあり、また、海外の図書館に行かずに入手できる資料は限られている。そのような状況で有用なのは伝世品、発掘資料、そして、江戸時代に筆写された奉行所側の記録である。 単語と実際の信仰具を対照させる地道な作業を通して、これまでザビエルがもたらしたと漠然と考えられて来たものがそうではないことがわかったが、このことは、西欧において真鍮の安定生産を背景にメダルが流布するのは16世紀後半になってからというM.Salvatらの研究成果に矛盾しない。また、信仰集団が細々と存続している場所をイエズス会士は繰り返し司牧に訪れ、そのたびに新たな信仰具を残し、それが集団の信仰を支えるよすがとなっていたことが判明した。さらに、日本に伝わった信仰具の特性から、西洋で隆盛していたデヴォチオ・モデルナ等の信仰形態がほぼ同時期に達していたことが判明した。筆者は、原城出土品のメダル1点がスペインの同心会会員証をもとに制作された可能性を示唆した。先行研究では、信仰具においてもイエズス会を主体に考えがちだったが、太平洋ルートでもたらされたスペイン系フランシスコ会等による信仰具の重要性に気づかされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナの状況がいつまで続くか不明なため、初年度は文献史料研究に比重を置いて、書籍購入やサイトを通して論文をダウンロードするなどして資料を入手していた。その結果、英文資料、オープン・アクセス可能な古い書籍や論文は入手できたが、実地調査はほとんど行えなかった。従って、美術史的アプローチでの研究は行っていないが、今後の研究の基礎となる信仰具の実態を考察するよい機会となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年は夏季にイギリスにおいて文献調査、スペインにおいて、メダル、プラケット等残存作例に関する調査を実施する予定である。もし、コロナ等の感染症により、また移動ができなくなった場合は、長崎県内で発掘された資料を文献と対照させて深く考察するつもりである。また、9月には延期されていた学振の外国人研究者招聘事業を実施する予定なので、それに合わせて日本全国での講演会、博物館・美術館等の訪問を準備する。
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