2021 Fiscal Year Research-status Report
鏑木清方「卓上芸術」を端緒とする、今日の絵画表現の可能性としての「卓上の絵画 」
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21K00213
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
近藤 恵介 佐賀大学, 芸術地域デザイン学部, 講師 (50839842)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鏑木清方 / 小林古径 / 安田靫彦 / 前田青邨 / ブレ、ズレ、ユレ / 卓上の絵画 / 近藤恵介 / 日本画 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年3月に書いた論文「卓上の絵画、線の振幅」において、鏑木清方と好対照を成す院展の三画家・小林古径、安田靫彦、前田青邨の描線のあり方を「ブレ、ズレ、ユレ」というキーワードにおいて考察し、清方の線のあり方との違いを明らかにすることで、今日における絵画表現の別の可能性を示した。 2021年度前半は、論文「卓上の絵画、線の振幅」を作品制作へと展開させた。300×200×172cmの木組みのフレームを試験的に作り、そこにさまざまな状態の紙片(絵画)を関係させる作品《卓上の絵画(所在|游芸)》を制作した。支持体が絵画の有り様を規定するのではなく、脆弱な紙片(絵画)がその都度一時的な状態を保持し、日本画の制作過程における「仮張り」のような宙吊りにされることで導き出される、別の接続可能性を検討した。 2021年後半は、論文「卓上の絵画、線の振幅」で述べた、「決定的な一本」の線が時空感を貫き重なることで新しい「場」になるようなあり方を自作にも見出すため、体系化の必要を感じ、主に展覧会に出品した作品を中心に「近藤恵介:作品総目録(2005年3月:2022年3月)」にまとめた。 また、継続的に雑誌媒体などで紙上作品を発表し、印刷物においてのみ可能となる作品のあり方を提示した。これは鏑木清方の「卓上芸術」への応答であり、絵画作品が自律的に存在しうる(とされている)展示空間とは位相が違うことから要請される作品内容への他者の積極的な介入への応答でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの流行に伴う社会状況を受け、リサーチが不足していることは否めない。
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Strategy for Future Research Activity |
作品《卓上の絵画(所在|游芸)》において試みた、「仮張り」的な、一時的な宙吊り状態から考えられる絵画の別の接続可能性を、引き続き作品制作の方法で検討する。これに加え、マルチプルへの展開も試みる。 また、2019年(令和元)年10月12日の超大型台風による記録的な大雨で、川崎市市民ミュージアムの作品収蔵庫が水没したことは記憶に新しいが、収蔵庫内にあった自作(冨井大裕氏との共作含む7点)も被災した。作品が自然災害により大きく様態を変えたことを、保存修復の観点からのみならず、制作者の視点から肯定的に考えることができないかと考え、「卓上の絵画」の枠組みで被災作品を取り上げる。コンサベーターに協力を仰ぎつつ、被災の痕跡をどのように扱うのか、また、元の作品が有していた造形要素や歴史といかに接続させるのか(あるいはさせないのか)を、制作と修復を往き来する作品へのアプローチの流れのなかで考察する。最終的には展示することで成果を示す。
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Causes of Carryover |
研究に割くことのできる時間が少なく、当初の予定に比べ進捗は芳しくなかった。 また、科研費使用に関するガイドラインについて、研究協力課の方と相談することにも時間がかかっている。このことがクリアされれば、当初の予定通り進捗するものと思われる。
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