2022 Fiscal Year Research-status Report
鏑木清方「卓上芸術」を端緒とする、今日の絵画表現の可能性としての「卓上の絵画 」
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21K00213
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
近藤 恵介 佐賀大学, 芸術地域デザイン学部, 准教授 (50839842)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鏑木清方 / 小林古径 / 安田靫彦 / 前田青邨 / ブレ、ズレ、ユレ / 卓上の絵画 / 日本画 / 近藤恵介 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、日本画家・小林古径の構築的な「線」と「遅筆」について考察を深め、制作研究へと展開させた。 古径の遅筆はよく知られ、証言も多く残されている。遅く描くことがもたらす画家の主体性の解体と再組織化の過程を、古径の《瓶》(1954)、《右手》(制作年不明)を模写(部分)することで追体験し、検証した。古径と同じ院展の画家である安田靫彦の《風来山人》(1930)も模写、引用(部分)した。 その後、模写を作品の構成要素とする《ひとときの絵画》《私とその状況(絵画の手と手)》など計13点の新作を制作した。作品は個展「絵画の手と手」展にて発表した。展覧会タイトルにある「手と手」とは、表装や額装されない「まくり」の状態の紙片(絵画)を次の状態への移行を予感させるものとして扱う、私の作品制作の方法に由来する。紙片の一時的な宙吊り状態から考えられる、別の接続可能を示すためのハブとして、複数の展示什器を製作した。また、展覧会の記録は現在論文としてまとめている。
2019年10月12日の超大型台風による記録的な大雨で、川崎市市民ミュージアムの作品収蔵庫が水没し、庫内にあった自作(冨井大裕氏との共作含む7点)も被災した。被災した作品をコンサベーターとの協働で修復する過程において、被災した作品の背景、作品が有する固有の問題を改めて考えた。成果は展覧会と書籍にまとめた。 当初は本研究とは別の研究であったが、作業を進めるなかで両者は強く結びつくことになった。両者が関係することで、物質としての絵画の脆弱性や損傷の不可逆性を、古典絵画との関係において捉えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大学の通常業務(教育、組織運営)が過多になっており、思うように研究の時間を確保できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の前半は、小林古径・前田青邨が1923年(大正12)に大英博物館において、約50日間にわたり協働して取り組んだ伝顧愷之筆《女史箴図巻》の模写作品《臨顧顧之女史箴図巻》を調査、模写し、新作絵画として発表する。古径・青邨が写した《女子箴図》に原本の線はほとんど残っておらず、多くは後世の人々の線に置き換えられている。失われた線を拾い集めるように、かけらを組み合わせて作られた線をモチーフとする。
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Causes of Carryover |
研究に割くことのできる時間が少なく、また昨年度の遅れが影響している。 また、科研費使用に関するガイドラインについて、研究協力課と相談することにも時間を要している。このことがクリアされれば、当初の予定通り進捗するものと思われる。
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