2021 Fiscal Year Research-status Report
異なる文化圏のシューベルト歌曲の受容の問題点を分析し現代において<読み直す>
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21K00217
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Research Institution | Toho Gakuen School of Music |
Principal Investigator |
梅津 時比古 桐朋学園大学, 音楽学部, 教授 (80449800)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社会的差別 / 性的差別 / 社会構造 / 比較文化 / 異文化圏 / 裏面史 / 詩と音楽の相互註釈 / テクストの読み直し |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は本年度、以下の点を明らかにした。 本研究は、研究代表者・梅津時比古がシューベルトの歌曲集《冬の旅》の分析と解釈に際して用いて高い評価を得た、隠れた象徴の読み解き(例えばドイツでも忘れられた風見鶏の意味)や、日常における異文化間の誤読を追求する比較文化論を、シューベルトの歌曲集《水車屋の美しい娘》と《白鳥の歌》にも応用することで、異文化圏としての日本における二つの作品の受容が生み出した問題点を明らかにする。同時に、その研究の成果を、原曲が創作されたドイツ語文化圏におけるこの作品の伝統的理解にも逆照射することにより、それのもつ現代における限界をも明らかにすることを試みるものである。 まず本年度は、《水車屋の美しい娘》のテクストにおける象徴の読み解きを行った。そのことにより、水車屋という職業がドイツ社会の中で差別されていた社会構造、また水車屋の娘が、性産業の対象として扱われていた裏面史が明らかになった。このことはあくまでも裏面史として隠されていたため、表だった楽曲解説や研究には従来、反映されておらず、象徴の読み解きとそれに関する資料の読み解きによってしか明らかにされ得ないことであった。それが音楽表現の背景に位置することを明確にしたことによって、詩と楽曲の合体である歌曲が社会問題を剔抉するツールとして存在してきたことが分かった。そのことは、裏面史であるが故に伏せられていたドイツ国内の研究においても逆照射して反映されるべきであり、ドイツにおける歌曲研究者・ピアニストのエリカ・ヘルツォーク氏からもその確かな反応を得たと同時に、次に予定されている《白鳥の歌》研究の基本的な取り組み方が確定された。この視点は次年度(2022年度)の研究において更に深める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のなかで、メール、ズームを多用し、頻繁に研究成果を遣り取りすることができ、集中して《水車屋の美しい娘》のテクストにおける象徴の読み解きと楽曲解析に当てることができたことにより、本来、本研究の最終年に予定されていた研究成果の刊行が《水車屋の美しい娘》の研究書に関しては2022年度にできるまで早まった。 これには八巻和彦早大名誉教授、西原瑠一桐朋学園大学大学院(博士課程)生、鳥谷健一ライター・編集者、ドイツの歌曲ピアニスト、エリカ・ヘルツォーク氏による研究寄与が大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
21年度の《水車屋の美しい娘》の解析は、シューベルト/ミュラーの歌曲における各歌曲間の関連性、構造関係にも新しい視点がもたらされた。その新たな視点を注視しつつ、シューベルトの最後の歌曲集である《白鳥の歌》象徴の読み解きと楽曲解析を行い、社会におけるこの歌曲集の位置づけを行いたい。この歌曲集が生まれたドイツの研究者と交流することはもちろんであるが、できれば、コロナの具合にもよるが、2019年に行ったようなドイツでのゼミナール(Die Ur-Winterreise von Schubert 22. bis 24. Februar jeweils von 9.30 bis 13.00 Uhr und von 15.00 bis 18.30 Uhr,2019 Cusanus-Geburtshaus)の開催にもこぎつけたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍でメール、ズームでの遣り取りが多くなり、交通費が減少した。対面に越したことはなく、次年度は対面を増やし、その際に使用する。
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