2022 Fiscal Year Research-status Report
ナチス・ドイツのクラシック音楽放送における録音技術と番組編成に関する実証的研究
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21K00218
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
佐藤 英 日本大学, 法学部, 准教授 (10409592)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ナチス / クラシック音楽 / マスメディア / ラジオ / 音楽政策 / プロパガンダ / ドイツ / オーストリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ドイツ帝国放送局がラジオでオンエアしたクラシック音楽の放送シリーズについてリサーチを行い、その成果の一部を論文として刊行することを目標とした。今回注目したのは、第二次世界大戦末期、すなわち1944年2月から開始された番組「ドイツの巨匠による不滅の音楽」である。この番組は毎週日曜日の18時からラジオで放送されていたもので、当時の「ドイツ」を代表する作曲家の作品を、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーをはじめとする当国の一流演奏家による録音を用いて紹介するというものだった。 この番組については、先行研究において言及される機会は多いものの、全容を把握することがこれまで行われていなかったように思われる。そのため、刊行した論文においては、演奏曲目や出演者などの情報や、現存する音源に基づく収録データを、可能な限りすべて提示するよう心掛けた。また、他の番組のための音源の再利用が認められるケースについては、過去の放送データも示した。この番組制作には、宣伝大臣のヨーゼフ・ゲッベルスも関与していた。ゲッベルスの日記、さらに番組編成会議の議事録を参照しながら、演目や演奏者の選定がどのように行われていたかについても解明を試みた。これらの検証を通じて明らかとなったのは、この番組のために準備された録音と他の番組で使用された録音を活用することにより、バラエティに富んだ番組が目指されていたこと、「ドイツ」のクラシック音楽文化の最良の部分を伝えることに注意が向けられていたことである。 「ドイツの巨匠による不滅の音楽」に関する今回の論文では、50回を超える放送を扱った。ナチス・ドイツ時代のクラシック音楽番組のデータを体系的に検証することがこれまで行われていない現状を考えるに、今回の研究成果は、今後のこの分野のリサーチに大いに貢献できるものとなったように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、航空券の価格高騰や円安、海外渡航にまつわる諸事情を勘案し、本研究課題の後半で予定していたリサーチを前倒しで行った。特に、ナチス・ドイツ時代末期のラジオ番組シリーズ「ドイツの巨匠による不滅の音楽」に関しては、論文刊行までこぎつけることができた。 今年度の問題点は、渡航費の大幅な値上げのため、ドイツ語圏における現地調査を行うことができず、現地でのみ利用可能な資料にアクセスできなかったことである。また、先の番組のリサーチと論文執筆に想定以上の時間を要したため、この番組以外の資料を整理・分析するところまで手が回らなかった。特に、スイスから入手したラジオ雑誌の調査は、1942年分についてはすべて現地より複写データを入手していたにもかかわらず、今年度中に完了するには至らなかった。 研究の進捗状況は、計画全体を俯瞰すれば決して悪くないのだが、基礎調査において手薄になったところがあったことを勘案し、自己評価は上述の「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、特に渡航費高騰のため、海外におけるリサーチを実施することができなかった。海外の図書館等の複写サービスを利用することにより、日本国内において研究を継続したものの、本研究課題のリサーチをさらに深めていくためには、現地においてのみ閲覧可能な資料にアクセスすることが必須である。2023年度には海外でリサーチを行えるよう、関係各所と日程等を調整する予定である。 また、2022年度に複写サービスを通じて入手した資料について、通読・整理が終わっていないものがある。これを完了できるようにしたい。複写資料によりリサーチを進められるところはまだかなり多い。日本国内において研究を効率よく進めるために、今後も引き続きこのサービスを利用し、資料の入手と分析を行うようにしたい。
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Causes of Carryover |
航空券の代金が燃料費高騰のあおりを受けて大幅に値上がりした。また、円安の影響で、海外から研究資料を入手する際に支出が増大した。費用対効果を考えた結果、今年度は日本国内でリサーチと成果をアウトプットすることを優先し、海外出張を断念せざるを得なかった。残額は海外渡航に充てる予定だったものの一部である。海外渡航費について今後の見通しを得ることは依然として難しい状況であるため、繰越額は次年度の交付金とあわせて海外渡航のための資金とする予定である。
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Research Products
(1 results)