2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00232
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
桶田 洋明 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 教授 (30336317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 茉莉香 鹿児島女子短期大学, 児童教育学科, 講師 (60896786)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 具象絵画 / 透明度 / 絵具層 / 絵具 |
Outline of Annual Research Achievements |
具象絵画に見られる3次元的・立体的表現と絵具層の透明度との相関について、過去の書籍・研究論文等を基に検証を行った。絵具の透明度に関する定義や色材の違いによる透明度の扱い、その原理等に関して分析を実施した。また過去の名画を直接鑑賞し、画面に見られる絵具層の透明度と空間表現との関係についても調査を行った。 油性絵具による表現と水性絵具によるもので、絵具の透明度に関する扱いや重要度に差異が見られた。油性絵具の代表である油絵具による描画では、展色剤の乾性油が顔料を包むことで顔料そのものの透明度の差に関わらず常に一定の透明度を保持している。さらに描画時における乾性油・ワニスの添加によって絵具の透明度は上昇し、乾燥後もそれは維持されることから、油絵具による表現と透明度の相関は常に存在し無視できないものである。そのことは過去の文献からも多数の記述が見られ、油絵具による描画の特色を発揮するためには絵具による透明度を心算の上、制作する必要があることが確認できた。文献によっては印象派以降の、油絵具の油分を極力排した不透明色による描画技法に対する否定的な見解を著したものも散見できる。その描画技法は絵具の展色剤である乾性油の減少による耐久性の危惧のみならず、油絵具がもち合わせる光沢性・透明性の排除に繋がるため容認しない論調のものが多い。 水性絵具に関しては乾燥後の絵具層自体が艶消しで、展色剤そのものの比率や性質から透明度が高くないため、油性絵具ほどの重要性は見られない。しかし希釈剤の水を含め絵具の顔料成分の比率を下げて描画することで絵具を半透明にして、支持体または下層の絵具を表出させる技法の差異はその重要度は高くなる。特にアクリル絵具においては、豊富な絵具の添加剤が存在し、今や油絵具以上に透明度やマチエールを変化させることが可能であるため、絵具の透明度を意識した描画の関係性は上昇している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
具象絵画に見られる3次元的・立体的表現と絵具層の透明度との相関について、過去の書籍・研究論文等を基とした検証が順調に進んでいる。マックス・デルナー(Max Doerner)やグザヴィエ・ド・ラングレ(Xavier de Langlais)等の技法書のみならず、近現代における画家・評論家が著した絵具の透明度に関する箇所を抽出し、比較検討を行った。その結果、特に油絵具における絵具層の透明度に関わる技法の変遷に関して、時系列による大まかな流れを確認することができた。一方で、表現技法に関しては制作者が慣れ親しんだものでの表現が成されるため、技法と空間表現との相関を導き出すことは現時点では困難であることが判明した。この件に関しては引き続き調査を継続していく。 アクリル絵具による透明度に関しては、絵具に添加するメディウム類において日進月歩で開発が進み、新製品が定期的に発売されることから、さらなる調査が必要である。アクリル絵具自体、絵具として登場して100年を経ていないため、研究論文を含めた文献等は油絵具のものと比較しても圧倒的に少ない。ゆえに自らアクリル絵具およびその添加剤による透明度の変化・効果の実験を継続して行う必要がある。特に近年、ジェルメディウムやモデリングペーストをベースとした様々な種類の添加剤が発売されているため、それらを用いた透明度の変化に関しても検証を進めていく。 水彩絵具に関しては、文献等での調査が順調に進んでいる。水彩による表現は、油彩画やアクリル画以上に主たる支持体である「用紙」の性質による変化が大きいため、水彩絵具そのものの調査と同時に用紙の調査・実験が必要である。一般的な画用紙等による調査はおおむね進んでいるので、今後はさらに特殊な用紙(極端な凹凸のあるもの、平滑なもの、吸収度の高いもの等)に描かれた水彩絵具の透明度に関しての検証をしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
水性絵具における立体的表現と絵具層の透明度との相関関係について、特にアクリル絵具や水彩絵具によるものを中心に文献等で引き続き調査していく。歴史の浅いアクリル絵具においては実制作・試作による検証を行い、試料の分析を進める。 油絵具における透明度の調査では、透明度の差で描かれた試作を作り、空間表現の有無に関する調査を実施する。また絵具の透明度に関する計測についても取り掛かる。現在において測定可能な機器による透明度の測定、肉眼によるデータ収集に加えて、新たな測定方法の可能性について模索する。具体的には、絵画作品の画面に付着した絵具層の透明度に関する計測の可能性について追究していく。絵具層における透明度を測定する機器の選定と測定を機器メーカー、工業技術センター等からのアドバイスを受けて、最適な機器とその測定方法を選定し、絵具層の明・暗部それぞれの透明度を計測する。なお、該当の測定機器は高額なものが予想されるため、レンタルまたは設置場所での使用を想定している。 アクリル絵具による調査では、現在発売されている絵具の添加剤を用いた透明度の変化について、試作を作ったうえで検証していく。アクリル絵具は油絵具よりも乾燥後の光沢・透明度の保持が困難であるが、それらの保持を助長するための添加剤が存在するため、実制作および詩作によって調査を進める。 水彩絵具においては、まず用紙の収集を行い、各用紙の厚さ・マチエールの有無・吸収度・色相明度等を分析し、それらの違いによる透明度の表出差について施策をもとに検証していく。 また、絵画の立体表現と絵具の透明度との相関に関し、立体表現の難易度について制作者側の見解についても調査を進めていく。その結果を集計し、絵具と技法・材料との相関について調査を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染状況の悪化に伴う緊急事態宣言、まん延防止等重点措置のエリア拡大により出張が不可能となる時期があり、その結果当初予定していた県外での調査ができず、出張費・人件費が当初予定額を下回る結果となった。 昨年度実施できなかった県外での調査を行い、それらに伴う旅費・人件費を今年度予算からねん出する。具体的には東京都、埼玉県の画材メーカーや鹿児島市外に位置する工業技術センターでの調査を予定している。
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Research Products
(9 results)