2023 Fiscal Year Research-status Report
Study of the interrelation between emerging technoscience and contemporary art
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21K00245
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 真人 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (10202285)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | STS / 科学技術社会学 / インフラストラクチャー / 現代アート / 保存 / 新規技術 / テクノロジー / 修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は科学技術がアート・ワールドに与える影響の一つの現れとして、新規テクノロジーをベースとしたアート作品について、アートワールド内部の様々なセクションが、どのように対処・対応するかを、理論的考察および、さまざまなタイプの資料分析、更に一部聞き取りをベースに明らかにするという方向で研究を進めた。理論的な関心の一つは、こうした新規テクノロジーを採用するタイプのアート作品において、テクノロジー自体の不安定性、あるいは過渡的な性格に対し、どう対応するかという点である。基盤となるテクノロジーが開発途中であるという点によって起きる急速な陳腐化という現象が、その作品の価値とどうかかわるかという問題である。特にテクノロジーの新奇性が作品の新奇性をある程度保障する場合、陳腐化は重要な問題になる。 また、伝統的技法によるアート作品は、その周辺にその保存、修復にかかわる、知識、技法、専門家の体制がある程度整っている場合が多い。他方、新規テクノロジー型の作品に関しては、そうした周辺知識/技術が必ずしも整備されておらず、作品の保管、維持、修繕といったインフラ的側面の体制が整っていない場合が少なくない。またそもそもそうした作品を誰がどう保存するかという点での合意が関係業界にあるのかもはっきりしない。過去の少数の事例を見ると、維持保存問題は今だ試行錯誤の段階である。 こうした問題に関する、アート・ワールドの諸セクターの反応は多様である。例えば現代アートを扱う画廊では、そうしたタイプの作品に対し、相対的に消極的にみえる。また実際にそうした作品を制作しているアーティストの証言においても、新規技術型の作品の維持保存には困難も少なからず存在し、その結果制作手法を再考するというケースもあることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新規テクノロジーの影響を受けたアート作品の制作と保存にかかわる問題に視点を移動し、そこで起きうる問題をSTSの理論的関心に近い形で具体化すると同時に、その問題のフォーカスに従って、文献等の資料およびインタビュ等の調査も行った。実際に画廊を経営する関係者や、現代アートを販売する画廊群が扱う作品の動向、またこうした新規テクノロジー型の作品を作成しているアーティストへの聞き取りも行った。そこで明らかになったのは、画廊等は新規技術による表現に対してあまり積極的ではなく、それが市場とどの程度の親和性があるかが重要な動機になるという点、また特にAIやロボットを中心として表現を行う場合、その作動、維持、補修の困難が多く、それによる経費もばかにならないため、表現の形式をより伝統的な手法に変えるといった可能性すらある点である。 本年度はこうした情報収集・分析に加え、それを成果として出版する努力も行い、そうした側面の理論的基礎を論じた論考、更に現在印刷中だが、実験にまつわる横断的な研究の一つの章がこの研究成果をもとに書かれており、順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの成果およびSTSの理論的裏づけを中心に、特に先端的技術を利用した表現に関する様々な隘路、すなわち関係するテクノロジーの急速な陳腐化、それに伴う作品の保存、維持、修理といったインフラ的な側面にかかわる隘路、問題について、作者、周辺関係者、美術館、あるいは画廊といった複数の主体がそれをどう認識し、どのような対応策を立てているかを、個別の事例に即する形で分析する作業を継続する。またコロナ禍で遅延気味の聞き取り作業という側面にも力を入れる予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による活動制限で繰り越しが生じたが、本年度は調査研究を加速させるため旅費等、活動が制限されていた部分も積極的に使用する。
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