2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Soviet Agrobiology School Based on the Archival Documents of the Lenin All-Union Academy of Agricultural Sciences (1935-1948)
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21K00246
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
齋藤 宏文 東京工業大学, 国際教育推進機構, 特任准教授 (30573050)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ルィセンコ主義 / ソ連遺伝学 / 農業科学アカデミー / 農業生物学派 / グルシチェンコ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度の研究内容は、コロナ禍による渡航制限がある中で実施可能なこととして、モスクワにおける史料閲覧を効率よく進めるための予備的調査を行った。すなわち、ロシア国立経済文書館(RGAE)のインターネット目録から、フォンド番号8390に相当する全連邦農業科学アカデミー関係の史料リスト(個々の史料タイトル、年代などが記載されている)を精査し、30,000点に上る数の文書群から必要と思われるものとそうでないものの分類を行った。この作業により、文書記録の全体像や構造を把握できた。この準備成果のうち最も大きかったのは、ルィセンコが農業科学アカデミーの内外と相当量の文通記録を残していた(その手紙が利用できる状態で保管されている)ことが分かったことである。これらの文通記録は概ね、最高権力者宛て、農業官僚宛て、同アカデミーに所属する幹部や一般研究員宛てといった具合に丁寧に分類がなされており、それぞれの階層におけるコミュニケーション内容に基づいて、農業科学アカデミーにおけるルィセンコの権力の実態ー利害関係の軋轢や人間関係における確執の有無などー、ひいてはルィセンコ個人の人物像にまで迫ることが可能であるとの見通しが立てられた。 研究成果の発信としては、日本科学史学会が発行する査読付き国際誌であるHistoria Scientiarumに、本課題に一部関係する論文を掲載した。さらにその内容を東京工業大学で行われた公開の科学史ゼミナール(オンライン開催)で報告した。これらは、ルィセンコの高弟として知られるイヴァン・グルシチェンコが 1956年に来日した際に、日本人遺伝学者との間で交わされたコミュニケーション内容の分析を通して、農業生物学派の長たるルィセンコの権力状態の変遷に迫った内容のものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
元より新型コロナウイルスの世界的流行拡大の影響により、夏期に予定していたモスクワへの調査旅行ができなかったことが、研究の進捗が遅れていることの最大の理由である。これに加えて、2022年の2月に始まったウクライナをめぐる国際情勢により、春期に計画していた渡航調査が妨げられることとなった。現地での資料調査が実施できなかったゆえ、決して順調とは言えないものの、その一方で国内でできる準備作業に最大限取り組み、かつグルシチェンコに着目することにより得られた知見内容を発表している以上、「やや遅れている」との自己分析を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
さしあたってはウクライナ情勢の推移を見守り、それが好転することを待ちながら、史料調査実施に向けての準備をじっくり固めていくことが必要である。ロシアに渡航できない状況が続く中で可能な善後策を挙げるならば、アメリカやカナダ、中国といった国の図書館や公文書館、あるいは大学や学士院などの研究機関に収められているルィセンコ派の人物に関連する史料を手がかりにして、本研究課題に間接的に迫るアプローチも可能である。特に上述のイヴァン・グルシチェンコは、農業生物学派のインターナショナル・スポークスマンとして東側か西側かを問わない様々な国を訪問した実績がある人物であり、日本のみならず他の国にも彼に関する活動記録が残されていることが期待できる。少なくても、これらに基づいて、農業生物学派の主要人物グルシチェンコの目を通してみたルィセンコ像の記述(日本での交流記録から示唆されるに、それは決してルィセンコに対する個人崇拝に常に終始する性格のものではない)は可能である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界的流行拡大、およびウクライナ情勢の影響により、夏期と春期にまとまった期間で予定していたモスクワでの史料調査が実施できなかったのが、次年度使用額が生じた理由である。これらの状況が好転し次第、滞在できる日数の限り、現地で史料調査を行う。滞在期間中に閲覧し切れない分の史料は現地であらかじめ複写を依頼することを検討し、そのために額を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)