2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K00261
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Research Institution | Administrative Agency for Osaka City Museums |
Principal Investigator |
嘉数 次人 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立科学館, 課長 (90853622)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 天文暦学 / 幕府天文方 / 天文観測機器 / 紅葉山文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世天文暦学者の研究活動の基礎である書物の利用について、また利用で得た知識の天体観測への応用について、2022年度は、①18世紀中ごろの幕府の天文暦学研究に重要な位置を占めた『西洋暦経』の調査、②18世紀後半に製作された天文観測機器への西洋天文学の影響、の2点を中心に調査と分析を進めた。 ①は、不明な点が多かった『西洋暦経』に関する調査である。この書物は幕府天文方の資料や書物奉行の執務日誌「書物方日記」などにその名が見られ、紅葉山文庫に収められていることは確認できるものの、詳細が不明であったが、その原本を発見し、全120冊の構成を明らかにすることができた。また、いくつかの写本も発見し、これに伴って『西洋暦経』の伝播とその影響を知る手掛かりが得られた。なお、本調査の結果は、前年度に行った天文方の紅葉山文庫本の利用実態の調査結果と併せて発表を3件行った。 ②は、18世紀前半から輸入され始めたイエズス会士系天文暦学書(漢訳西洋天文書)の影響が、天文観測分野にどのように及んだかを知るための調査で、前年度からの継続調査である。その結果、幕府が18世紀前半に製作した観測機器である簡天儀と測午表には、360度の西洋式の角度が刻まれていた事を見出した。その一方で、天文方の理論研究での西洋度の導入は遅れ、明和年間に行われた修正宝暦暦作成においては、西洋度で得た観測データを、365.25度の中国式の角度に置き換えている様子も見出した。これにより、18世紀前半から流入した西洋天文学の知識が、基礎概念として研究者たちに定着する過程の一端を窺うことができる。なお、本調査の結果は、2023年度に学会発表を行う予定で準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大により、所蔵資料の調査や公開を休止している施設が複数あり、実物資料調査を当初の計画どおりに行うことができなかった。一部については、各施設が公開しているオンラインのアーカイブ文献資料の利用による調査で対応したが、全体としては研究活動がやや遅れる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2023年度は、2021年度から継続している幕府天文方による紅葉山文庫の蔵書利用とその影響の調査を継続する。近世の天文暦学は、書物を通じて中国や西洋の知識を受容していたため、どのような書籍がいつ輸入・利用されたかを知ることは重要である。そこで、「書物方日記」の調査は、調査年代を広げて実施したい。併せて、『西洋暦経』の写本の調査を継続して実施し、その伝播と影響を調査する。また、天文観測における西洋天文学の影響についても、観測記録を中心とした資料の調査を継続する。 これらの調査・考察を通じて、近世日本の天文暦学における、知識の受容から研究への応用、暦法作成という一連の流れの把握に努める計画をしている。またこれまで得た研究成果は、2023年度の学会や研究会で発表する予定をしている。
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Causes of Carryover |
今年度は、各地に所蔵される資料調査を実施したが、コロナ禍による諸制限のため十分に実施するまでには至らなかったため、旅費を中心に繰り越しが生じた。次年度は、新型コロナウイルスの感染対策が見直される状況と、これまでの調査成果を総合的に考えた上で、可能な限り資料調査を実施して旅費の支出も行い、計画的に支出を行う。
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Research Products
(3 results)