2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00272
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
小秋元 段 法政大学, 文学部, 教授 (30281554)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古活字版 / 嵯峨本 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、平仮名古活字版の最初期に現れる嵯峨本の探求を行った。嵯峨本は『伊勢物語』や「観世流謡本」に注目が集まりがちであるが、その他の嵯峨本についても、出版史的観点からの考察が必要である。すでに十行本『方丈記』、嵯峨本『徒然草』、下村本『平家物語』に共通の活字が使用されていることは考察を終えているが(「嵯峨本とその前史の一相貌」『法政大学文学部紀要』82、2021年3月)、今回さらに嵯峨本『伊勢物語肖聞抄』『源氏小鏡』でも同活字が用いられていることを確認した。すなわち、嵯峨本と呼ばれる諸本において、十行本『方丈記』、嵯峨本『徒然草』、下村本『平家物語』、嵯峨本『伊勢物語肖聞抄』、嵯峨本『源氏小鏡』が、最も多くの書籍間で活字を共有し、嵯峨本の「中心」であったと評価できるであろう。 つぎに、本年度は、変体仮名の字母の使用状況を調査した。嵯峨本『伊勢物語』では108種と飛び抜けて多く、以下、嵯峨本『徒然草』96種、嵯峨本『方丈記』95種、十行本『方丈記』94種という数字であった。一方、複数名による寄合書である幸隆本『徒然草』では76~98種という状況である。ここからわかることは、当時の手書きの人のうち、もっとも多くのバリエーションを使用する人の手に、嵯峨本類の字母の種類数は同じであることだ。この点は、当時の文字表記の環境における嵯峨本の位置を考えるとき、重要である。 なお、本年度は2021年2月20日に開催された印刷博物館主催第1回印刷文化学会議「テキストと版画―印刷による知の循環」の出版作業にも携わった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
嵯峨本『伊勢物語肖聞抄』『源氏小鏡』の活字が、十行本『方丈記』、嵯峨本『徒然草』、下村本『平家物語』と同じものであることが特定できたことは、本研究における進歩であった。また、仮名字母の種類数から嵯峨本と当時の写本における複数の手跡と比較した点も、本研究における進歩であった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、嵯峨本の全体像を明らかにしたい。そのため、『方丈記』『撰集抄』も視野に入れた研究を行う。また、字母の種類数とは異なる観点による指標を見いだし、写本と古活字本の差違を明らかにする方策を見いだしたい。加えて、本年度の知見を生かして、嵯峨本以降の平仮名古活字本の調査を行いたい。さらに、『太平記』など、写本・古活字本ともに平仮名・片仮名を有する本における相互の連続性も検討対象に加えたい。
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Causes of Carryover |
購入する図書の選定を慎重に行った結果、予算執行に係る書類の提出が年度内の期日に間に合わなかった。22年度は早めに図書の選定を行い、予算執行してゆきたい。
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Research Products
(3 results)