2022 Fiscal Year Research-status Report
1930年代における中河與一の芸術理論についての総合的研究
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21K00306
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
黒田 俊太郎 法政大学, 経済学部, 教授 (10646946)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中河與一 / ゴルフ / 校異 / 校合 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、1930年代に中河與一が主催した同人誌『翰林』(1933-36)を精査するとともに、1930年代に刊行された中河の小説テクスト(異本を含む)を収集・分析した。 令和3年度には、科学知と遭遇した中河が、「唯物論的な文学論(注、形式主義論)の完成」を目指して創刊した同人誌『新科学的』を調査・分析し、1931年から翌年にかけての中河が、〈科学とロマン〉が交差する地点を模索していたことを指摘した。中河は、ひたすら形式の重要性を主張するところから、「古典・悲劇、そして美の回復という三位一体の理念」に基づき、「「美しさ」という価値=内容」を小説に求めるようなものへとシフトしていったと考えられる。 本年度は、そうした模索期に執筆された小説「ゴルフ―一名鏡に這入る女―」の初出(『文藝春秋』1931)と初刊本『ゴルフ』(昭和書房、1934)、これら両者の本文について校異を実施し、その異同の意味について考察した。これにより、〈科学とロマン〉が交差する地点の模索という中河の思考の動きを、小説「ゴルフ」の改稿という事態の中にも見出すことができるとの分析結果を得ることが出来た。 その結果の一部を、論文「中河與一「ゴルフ」考―初出誌・初刊本の異同について―」(『経済志林』90(3・4)、法政大学経済学部学会、2023・3)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1930年代に刊行された中河與一の小説テクスト(異本を含む)、同人誌『翰林』『文芸世紀』等の一次資料、科学・浪漫主義・全体主義等に関連する同時代の文献、北米日系移民関連資料等を収集することが出来た。また、中河の小説テクスト「ゴルフ」の改稿について分析することで、中河の芸術理論が実践に応用されていることも確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、中河の芸術理論に関する発言を収集・分析し、その質的変容について精査する。また中河の小説テクストの分析も行い、実作への応用過程についても跡づけていく。それにより、中河の芸術理論が全体主義へと向かう地点を特定していきたい。
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Causes of Carryover |
令和4年度より所属研究機関が鳴門教育大学から法政大学に変更したことにより、国会図書館等への調査を目的とした旅費がかからなかったため。 令和5年度以降も、予定していた調査を進め、書籍・雑誌記事・新聞記事等を収集するため、国立国会図書館等の図書館・資料館等に赴くなど、適切に設備備品費・旅費を執行する予定である。
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Research Products
(2 results)