2021 Fiscal Year Research-status Report
横光利一の直筆原稿とメディア検閲に関する国際的研究
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21K00313
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 横光利一 / 直筆原稿 / 日本文学 / 検閲 / 内務省 / GHQ / メディア / 出版 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、作家・横光利一の直筆原稿から雑誌・新聞・単行本に至る本文の生成を分析する本文研究と、アジア・太平洋戦争の戦前・戦中の内務省による検閲、および占領期日本のGHQ/SCAPによる検閲という、異なる二つの検閲を視野に入れたメディア研究とを接合することで、メディアが大きく発展した時代に活躍した作家の特色を総合的に解明するものである。 その解明にあたっては、まずは横光の直筆原稿および校正刷を網羅的に収集・分析することを目的に、当該年度には、神奈川近代文学館、世田谷文学館、日本近代文学館、早稲田大学など首都圏の研究教育機関を中心に、横光利一の直筆原稿の資料調査を行い、新型コロナウイルス感染拡大の状況次第で、鶴岡市大宝館、宇佐市三和文庫、川内まごころ文学館、三重県・横光利一資料展示室など、国内各地の機関の調査も行う予定であった。 しかし、感染拡大は収束せず、国内においてもいまだ移動が厳しく制限されたため、それらの調査の実施を中止し、これまで継続的に実施してきた調査・分析の研究成果をまとめ、広く発信することを行った。 具体的には、2021年3月20日に開催された「横光利一文学会第20回大会シンポジウム」での発表に基づき、学術論文「横光利一における本文研究の可能性――直筆原稿・メディア・検閲」(『横光利一研究』第20号、2022年3月、pp.103-108)を発表した。 この論文では、横光利一の直筆原稿とメディア検閲の軌跡を精緻にたどることで見えてくる新たな本文研究の可能性について提示し、その一端を解明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、新型コロナウイルス感染拡大のために、出張が大幅に制限されることとなった。そのため、計画していた国内の研究教育機関における調査・分析を実施することができず、当初の予定を変更して、これまでの研究成果をまとめて公にすることに注力した。主な成果としては、2021年3月20日に開催された「横光利一文学会第20回大会シンポジウム」での発表に基づき、学術論文「横光利一における本文研究の可能性――直筆原稿・メディア・検閲」(『横光利一研究』第20号、2022年3月、pp.103-108)を発表した。1920年代から1940年代にかけて、近代日本におけるメディアの大変革期であったこの時代に作家として創作活動を続けた横光利一の直筆原稿を通して、作家とメディアが検閲をめぐり、どのようにかかわりあっていったのか、また、そこで生じたせめぎあいが、いかにして作品本文に影響を与えたものであったかを探究し、解明することによって、着実に研究を進めることができた。以上のように、パンデミックの状況下にあっても、柔軟に対応しながら着実に研究成果をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2021年9月に上梓した『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』(岩波書店、2021年9月、pp.1-416)における研究成果のうち、直筆原稿とメディア検閲に関する側面の調査・分析をさらに進展させていく。具体的には、第一点目は、同書の成果の意義を検証すること、第二点目は、未調査の直筆原稿を調査し、必要に応じて翻刻を行ったうえで研究論文としてまとめていくことが今後の研究推進の方策となる。第一点目については、すでに論文の執筆に着手している。第二点目については、横光利一の習作期の直筆原稿「骨董師」の調査と考察である。「骨董師」は横光が懸賞小説として応募し、佳作入選となり、『文章世界』1918(大正7)年8月号にタイトルのみ掲載された小説の直筆原稿である。「横光白歩」という習作期に使用していた筆名と筆跡から、横光利一の直筆原稿と判断される。「骨董師」はこれまで、入選作としてタイトルのみ知られていた。この直筆原稿は、20字×10行の200字詰(鷲印特製)で37枚あり、『定本 横光利一全集』全16巻・補巻(河出書房新社、1981~1999年)にも未収録の貴重な未発表小説である。ただし、夥しい推敲を重ねた痕跡の残るこの直筆原稿は、雑誌『文章世界』に投稿した清書稿の前段階の草稿である可能性が高い。地方の骨董師を主人公とするこの習作は、モダニズム文学の騎手として都市を舞台とする数々の話題作を創作した作者のイメージとは大きく異なり、自然主義文学の影響圏内で模索しながら創作していたことがうかがえる物語内容である。こうした横光利一習作期の直筆原稿の考察を通じて、研究課題をさらに深化させていくことを計画している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、パンデミックのために出張が行けなくなったためである。次年度繰越額は約28万円。今年度は徐々に移動が再開されることが予想され、日本近代文学館・神奈川近代文学館・早稲田大学図書館など、国内調査を実施したいと考えている。また、実施が難しい場合のバックアッププランも検討中であり、研究計画に基づく適切な使用をする予定である。
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