2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00329
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
谷口 高志 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (10613317)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 生活様式 / 科挙 / 苦学 / 努力主義 / 身体 / 感性 / 読書 / 勤勉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日常への関心の高まりという中国文学史上の問題を、唐代後期の中唐期における社会構造の変化(世襲による貴族制から能力本位の官僚制への移行)と結びつけ、中唐期の文学のなかに、この時代特有の新たな価値観(科挙出身の新興階層による〈平民〉的価値観)の胎動を読み取ることを目指す。具体的には、①科挙受験期における勉学(刻苦勉励を重んじる努力主義的な価値観の発生)、②日常における文学創作(苦吟を重んじる風潮の流行)、③日常における趣味生活(生活の規範化・定型化)、④身体と感性(生活様式の定着とそれに伴う身体意識の変化)の四つの項目に即して研究を進めていく。本年度は研究課題全体に関わる基礎的な作業として、科挙に関する作品、勉学・読書に触れた作品を収集して考察を行い、今後、研究を展開していく上での大まかな見通しを得ることができた。 またそれと並行して、中唐文人の祝文に関する研究を行い、その成果として学会発表「韓愈「ガク魚文」とその周辺――唐代の祝文系作品における地方官と神霊」(2021年度第32回中唐文学会大会、オンライン)を行なった。中唐期の文人は、州県の長官として地方に赴任することが多く、彼らは旱魃や水害が起こった際には、当地の祠廟に出向いて雨乞いの儀式などを挙行した。そのときに書かれた祝文の表現について考察し、彼らがしばしば土地の神霊に攻撃的な態度で臨み、〈官僚的な勤勉さ〉を神霊に要求していることなどを指摘した。本研究課題は、刻苦勉励を重んじる努力主義的な価値観の台頭をあぶり出すことを一つの目的とするが、官吏として書かれた公的な文章のなかに、勤苦を尊ぶ志向が色濃く表われていることを確認することができた。 そのほか本研究課題に関連する成果として、共著『韓愈詩訳注第三冊』(川合康三・緑川英樹・好川聡編、研文出版、2021、執筆担当箇所は69頁-86頁)の出版に関わることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、刻苦勉励を重んじる努力主義的な価値観の発生を、中唐期の詩文の一部(主に白居易・韓愈の作品)を通して確認することができた。また、中唐の文人が残した祝文についても研究を行い、彼らが朝廷に仕える官吏として、いかなる勤怠意識を有していたのかについても一定の知見を得られた。中唐期における価値観の変動を探るうえでは、私的環境下で書かれた作品だけでなく、公的な文書をも視野に入れることの重要性に気づかされ、今後の研究における一つの指針を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本年度の成果を踏まえつつ、科挙に言及した中唐期の詩文をより広く収集し、勉学・読書の営みがどのように捉えられているのかについて更に検討していく。具体的には、科挙に言及した詩文のなかから、試験のための読書生活に触れたものを抽出し、その営みが苦学として捉えられていることを、六朝期における読書のあり方と比較しながら明確にし、中唐期における努力志向の台頭を跡づける。科挙に関する作品としては、直接科挙を扱った登第詩や下第詩は勿論のこと、中唐文人が自らの半生を主題として詠んだ回顧詩にも注目したい。回顧詩を中軸に据えた考察を行なうことで、読書の日々と科挙の経験が、文人たちのなかでどのように内面化され、いかなる価値意識を促したのかが、より鮮明に浮かび上がってくるものと思われる。 また、本年度に行なった中唐期の祝文に関する研究を、論文として公刊することを計画している。日常生活を題材とした私的な詩文だけではなく、文人たちが官吏として書いた公的な文章をも視野に入れることで、公と私の両面に通底する、意識や価値観に迫ることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
本年度は、おもに書籍の購入に予算を用い、研究環境を整えることに注力したため、他大学への資料調査や学会発表などに行くための旅費を使い切ることができなかった。次年度は、前年度に引き続き、研究環境の整備に努めるほか、資料調査や学会発表に赴き、より有効に予算を使用する計画である。
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Research Products
(2 results)