2021 Fiscal Year Research-status Report
『参天台五臺山記』を援用した漢文手紙文書の運用実態解明に向けた研究
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21K00335
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山本 孝子 広島大学, 外国語教育研究センター, 准教授 (10746879)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 『参天台五臺山記』 / 成尋 / 書儀 / 書簡 / 東アジア漢字文化圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、平安時代の天台宗の僧・成尋の日記である『参天台五臺山記』に記録された漢文手紙文書について、同時代の書儀や敦煌発見の書簡実物と比較しながら、形式や内容について検討する。誰〈差出人〉が、誰〈受取人〉に、どのような書式で、どのような手段・方法・経路によって、どのような情報を伝達するのか、多角的に分析し、その性格や位置づけを明らかにする。そして、当時日常的に使用されていた漢文手紙文書の全体像の把握につなげ、書儀研究の充実に資することを目指している。 初年度は、以下の研究を進めた。 (1)今後の研究の基盤となるデータベースの構築を進めるために、現存する諸本を校勘してテキストを確定しつつ、漢文手紙文書そのものやその授受に関わる記述の抽出作業を行った。 (2)手紙(/書式)の名称を収集し、分類・整理をした。日本語由来のものか、成尋が現地で見聞きしたままに控えたものか、あるいは総称であるのか、特定の書式を指すものであるのか、にわかに判断することができないものも含まれており、書儀など同時代の資料とも比較しながら、分析を進めているところである。 (3)抽出した文書の一部については、書式の復元や内容の分析を進めつつあり、次年度以降も作業を継続する。 (4)敦煌発見の表状箋啓書儀の編纂・成書過程に関して、P.3864「(擬)刺史書儀」を対象として考察を加え、論文にまとめて公表した。今回着目した「吊儀」については、もとになった手紙も組織的に蒐集されたのではなく、偶々手に入れた、手元にあったものを大まかに分類して書き写したものであると考えられ、成尋の日記と共通する点があるように思われる。今後他の事例についても考察していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属研究機関の変更や新型コロナウイルスの影響により、当初計画していた資料の調査閲覧などができなかった。また、情報収集や意見交換を行うための各種研究会が中止となった。一方で、初年度に予定していたデータの収集・整理作業のための時間を十分に確保し、テキストの読解を進めることができた。一部ではあるが形式や内容の分析を行う段階に進み、その成果を論文1本にまとめ公表できたことから、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
未確認のままになっている伝本について、閲覧調査を行い、テキストの校訂作業を行い、正確な釈文の作成を進める予定である。並行して、初年度に収集したデータの補強・整理・分析を進める。各種書式の復元を行い、日本人の僧侶が中国社会との関わりの中で、日常的にどのような文書を用いていたのか、全体像を把握することを目指す。 本研究の目的のひとつである書儀(特に表状箋啓書儀)の分類方法の問題については、成尋が各種文書を記録する目的やその過程を考察し、それを参考に書儀の編纂方法について検討を加えていく。 このほか、これまでに気づいた名称の問題に関して、敦煌発見の書儀・書簡文や『五杉連若新学備用』などと比較し、その特徴について理解を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
【理由】事前計画では資料の実見調査のための旅費を計上していたが、新型コロナウィルスの影響により見送ったため。また、所属研究機関の変更にともない、研究遂行に必要な研究資料がどれほど利用可能であるか、新たに購入が必要なものを把握するのに時間がかかり、関係図書・その他設備備品の購入を控えていたため、残額が生じている。
【使用計画】次年度以降も海外への移動制限はある程度続くと思われるが、国内での調査は実施可能であると考えている。資料の収集・調査のため、国内での複数の研究機関を訪問するための旅費に充てるとともに、既刊の関係図書のうち所属機関において日常的利用が困難なものを当初予定していた分に追加して購入する予定である。
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Research Products
(1 results)