2021 Fiscal Year Research-status Report
イギリス・ロマン主義文学における知識と社会改革の意義
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21K00344
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
後藤 美映 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20243850)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ロマン主義文学 / 視覚表象 / 姉妹芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ロマン主義の詩的改革をジョン・ドライデンやアレクサンダー・ポープらの18世紀新古典主義から、ロマン主義のワーズワスら湖畔派やリー・ハントとジョン・キーツらのコックニー詩派、そしてヴィクトリア朝のラファエル前派までに至る通時的な美学理念の変遷という流れを通して考察した。 美学理念については、特に言語と視覚表象、詩と絵画の密接な関係を考察し、「姉妹芸術」の伝統がどのような歴史的変容をなしたかという観点から研究を進めた。ロマン主義文学においては、言語と視覚表象との関係を取り結ぶ伝統といえば、18世紀の新古典主義の作詩法が基底にあり、新古典主義の詩は、姉妹というルネッサンスからの伝統であるアレゴリーに倣い、コード化された詩語と詩的イメージを用い、18世紀の文芸共和国を形成する共同体の「優美」に奉仕した。これに対して、詩的言語と視覚表象との新しい関係を「実験」として呈示したのが、ウィリアム・ワーズワスとS. T. コールリッジの『叙情歌謡集』であった。さらに第2世代におけるハントとキーツらは、規範を逸脱するスタイルの多様性や商業主義への批判といった同時代の社会批判を詩において表現するという言語改革を標榜した。こうした詩の革新性は、ヴィクトリア朝のラファエル前派の絵画に継承され、ジョン・エヴァレット・ミレイらは、18世紀から19世紀までの王立美術院を中心とした伝統的規範を排する新しい絵画のスタイルと視覚的イメージを表現した。 このように、言葉とその視覚的イメージとの慣習と化した結び付きに大きく修正を強いる、新しい見方を呈示するということに、ロマン主義の詩的革新性が存在したことを明らかにするとともに、その革新性の基軸には、時代の精神性が宿っていたことに着目することによって、詩的改革における湖畔派やコックニー詩派、ラファエル前派といった共同体の役割についても考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロマン派の詩的改革を、美学理念の変容という観点から、18世紀の新古典主義から19世紀初頭のロマン主義を経て、19世紀中葉のラファエル前派までにいたる長い歴史のスパンにおいて考察し、さらにその改革が詩人の個別の文学的試みとしてなされるのではなく、いわば共同体という時代のネットワークの中からなされることを考察できた点において、おおむね研究は順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性としては、科学と詩との関係を通して、17世紀から19世紀までの学問的知識の体系がどのように変化し、ロマン主義の詩が学問的知識の体系にどのように与していたのかについて明らかにする予定である。特に、16、17世紀の科学革命から誕生する近代科学が、生物学、生理学といった特定の学問分野として専門分化していく時代の過渡期であったロマン派の時代において、専門化する知の体系に詩がいかに寄与しうるか、人間や社会に有用であるとみなされた科学に対して詩の意義とは何であったのかについて考察を試みる予定である。そして、ロマン派の詩人らが、科学と詩が融合する諸学問の包括的な知の体系を詩として呈示するための横断的知のあり方を詩として表現したことを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
海外に発注した洋図書については、コロナ禍の状況にあることもあり、図書館に納品の時期が遅れる状況にあり、予定通りに図書を購入できずに次年度使用額が生じた経緯がある。翌年度に研究のための図書を購入するために使用する予定である。
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Research Products
(3 results)