2021 Fiscal Year Research-status Report
Quotation, Selection, Adaptation of Romantic Poetry: The Cultural Landscape of the English Lake District and the Popular Reception of Wordsworth
Project/Area Number |
21K00347
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (60316031)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | William Wordsworth / 英国湖水地方 / 文化的景観 / 印刷文化 / 受容 / 引用 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、ウィリアム・ワーズワスの『湖水地方案内』を水の循環というイメージに沿って再読した。『案内』のなかに詩が引用され、またこの『案内』のテクストが他の媒体に引用されることによって、さまざまなテクストの共鳴を通して、湖水地方の風景を形作る「水の循環のイメージ」が19世紀の旅行者の間に広まっていく様子を明らかにした。これは論文‘The Cycle of Waters in Wordsworth’s Lake District’として大学の紀要に発表した。この論文の副産物として、ワーズワス・トラストから依頼され、資料館での展示品について解説を行った。そこでは、ダドン・ソネットがガイドブックや挿絵入り本、旅行記事や絵はがきなどに引用・援用され、ダドン渓谷の文化的景観が作られていく様について解説している。 ワーズワスの『湖水地方案内』(1810-1859)には出版社による再編纂も含めて10の版があるが、これが19世紀の引用・抜粋文化のなかでどう発展していったのかについて調査を行った。即ち、『湖水地方案内』のテクストが様々なガイドブックや大衆雑誌に引用されるさま、逆に、それらの媒体からの再引用を組み込んで『案内』の新しい版が作られているさまを検証し、いかにこのテクストが、1冊の本の枠組みを超えてcollectiveなテクストへと発展していったか、それによって静寂という湖水地方の文化的価値がいかに広まっていったかについて、リサーチ及び考察を進めた。令和4年度中に論文にまとめて発表する予定である。 その他、ワーズワスと湖水地方案内の伝統について扱った書籍の書評論文を、依頼されて執筆・発表した。また、日本英文学会のシンポジウムにおいては、ワーズワスの旅の美学や環境意識が、20世紀初頭の自動車・自転車旅行者たちの旅行記にいかに引用・援用されていったかについて、発表を行った
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、コロナ禍の世界的広がりによる渡航制限も続いており、大英図書館や公文書館での資料調査ができなかった。オンラインで入手できる資料を利用したり、図書館司書に依頼して電子データを送ってもらうなど、多少の工夫は行ったものの、十分とは言えない。 また、渡英して国際学会等で発表する予定が二つあったが、ひとつは中止となり、もう一つはオンラインでの開催となり、発表原稿の分量を短縮することが求められた。そうした事情で、当初の予定から考えると十分な成果とは言えず、(3)やや遅れている、と評価する。 しかし、zoomで開催された国内学会(日本英文学会全国大会)では、シンポジウムを企画立案し、登壇者たちと3回にわたって行った研究会やフロアとの意見交換を通してアイデアを深めることができた。また、zoomで開催されたEdward Thomas Literary Festivalで招待講演を行ったり、ワーズワス資料館での展示解説を依頼されて行うなど、これまでの研究成果を一般に還元する機会もあり、それなりに充実していた。
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Strategy for Future Research Activity |
ワーズワスの『湖水地方案内』は、詩人の死後もさまざまな出版社から簡略版が出されたり、抜粋という形で利用されるなどして、19世紀半ばから20世紀初頭の湖水地方観光に影響を与えている。このことに関しての一次資料の調査が、令和3年度には不十分であったため、渡航制限が緩和されたら現地の公文書館を訪れ、調査を行いたい。また、オックスフォード大学出版社から出版予定の、Oxford World’s Classics版のGuide to the Lakesの完成に向けて取り組み、これと関連した研究発表も国際学会にて行う予定である。なお、令和3年度に行ったリサーチをもとに、論文をひとつ公刊する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナの感染状況が落ち着かず、参加予定であった国際学会が中止となり、またリサーチのために予定していた渡英も中止となったため、旅費の使用がなかった。また、前年度の研究費の繰り越し分を先に使用したため、当科研費については、大幅に余ることになった。次年度に繰り越した研究費は、渡航制限が解除されれば資料調査および国際学会参加のための渡航費にあてる。2年間渡英できていないため、少し長めに滞在してリサーチを行いたい。
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