2023 Fiscal Year Annual Research Report
Vulnerability as a Beginning of Care in American Modernist Literature
Project/Area Number |
21K00348
|
Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
井出 達郎 東北学院大学, 文学部, 准教授 (60635986)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 傷つきやすさ / ケア / モダニズム / F.スコット・フィッツジェラルド / レイモンド・チャンドラー / ヘンリー・ミラー / J. D. サリンジャー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、過去二年の研究を継続する中で、本研究課題である「傷つきやすさ」と「ケア」という主題を考察する上での新しい視点を獲得することができた。まずF. スコット・フィッツジェラルドの長編小説『夜はやさし』について、先行研究で指摘されていた「単独性」というキーワードを「時間的な傷つきやすさ」と呼ばれる概念と接続し、明確な原因と結果によって計測ができない存在へのケアのあり方を考察し、国際学会での発表につなげることができた。また、本研究の主な対象となっているモダニズム研究の発展の可能性を考えるうえで、現代作家チャールズ・ユウの短編小説「スタンダード・ロンリネス・パッケージ」について、グローバルな権力関係における「受動性」を本研究課題の文脈から解釈し、「傷つきやすさ」をテーマにした国際学会での発表につなげることができた。 期間全体を通じた成果としては、これまで扱ってきた作家の中からF.スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・チャンドラー、ヘンリー・ミラー、J. D. サリンジャーという4人の作家をめぐる論考をまとめる目途を立てることができた。フィッツジェラルドの作品から大きな枠組みとなる主題を抜き出しながら、残りの3人の作家を「世界」、「生」、「死者」という視点からそれぞれ読むことで、「ケアの契機としての傷つきやすさ」という問いが持つ豊かさを具体的な作品の読解を通して提示し、モダニズム期における文学研究の新たな一面を切り開こうとするものになっている。残念ながら年度内には形にできなかったものの、本課題の研究活動を通して知り合うことができた海外の研究者の協力も仰ぎつつ、英語での単著として出版する予定である。
|