2022 Fiscal Year Research-status Report
Malory's _Morte Darthur_ in the Nineteenth-century Printing Culture in Britain: Editors, Publishers, and Readership
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21K00349
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
不破 有理 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (60156982)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Thomas Malory / 『アーサー王の死』 / 『アーサー王の死』の出版史 / Joseph Haslewood / 19世紀英国出版文化 / Robert Wilks / Globe edition |
Outline of Annual Research Achievements |
日本英文学会第94回全国大会におけるシンポジアムを企画・登壇した。トマス・マロリーのテクストの出版史550年を、印刷・出版・読者の観点およびパラテクスト的要素から通観し、日本人研究者のマロリー学への貢献の可能性を論じた。筆者はほぼ2世紀ぶりに出版されたウィルクス版とウォーカー版の『アーサー王の死』をめぐる印刷競争について、その勝敗の要因を印刷の仕上がりや価格差などのほかに、パラテクスト的要素(タイトル・コロフォン・印刷レイアウトなど)から論じた。本シンポジアムを通して得られた知見をさらに加筆修正し、“Title Matters: From William Caxton to Joseph Haslewood; colophons, titles, and editions of Malory’s _Morte Darthur_”と題してまとめ、論文はPOETICA(2023年)に掲載された。 また慶應義塾大学教養研究センター選書として、『「アーサー王物語」に憑かれた人々―19世紀英国の印刷出版文化と読者』を刊行した。テクスト刊行に携わる編集者・印刷業者・出版業界に注目し、『アーサー王の死』の1816年版二版と1817年の出版経緯を中心に論じ、また1868年のグローブ版の出版裏事情にも照射し、テクスト出版によって紡がれたアーサー王伝承の様相を描いた。 さらに、2021年に発表した1816年版の印刷業者ロバート・ウィルクスに関する論考の後編をまとめた。伝記的新事実を発掘し、後半生を再構築し、「『アーサー王の死』(1816年)の印刷者Robert Wilks--未刊行資料から伝記的再構築の試み(その2)」として刊行した。現時点での完結版である。ウィルクスによる80余点の出版物一覧もまとめた。各論文の本研究における位置づけについては、以下の「進捗状況」の項目で補足説明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時に掲げた本研究の第一の目的は、アーサー王物語の伝播と受容に大きな役割を負った『アーサー王の死』の詳細な出版史を明らかにすることである。研究期間の2年目の2022年度内に、研究実績概要で上述した通り、論文を日本語と英語で刊行できたこと、また当初予定していなかった単行本としてもまとめることができたことは予想以上の成果と考えている。 1816年のウィルクス版については、日本語論文「『アーサー王の死』(1816年)の印刷者Robert Wilks--未刊行資料から伝記的再構築の試み(その2)」において、これまで不明であった印刷者ウィルクスの伝記的詳細を探し当て、かなり実像に迫ることができた。英語論文“Title Matters: From William Caxton to Joseph Haslewood; colophons, titles, and editions of Malory’s Morte Darthur”においては、こちらもこれまで論じられたことのない、パラテクスト的要素からウィルクス版について分析し、編集者ヘイズルウッドのテクスト編集者としての技量を分析し、その功罪を再評価した。これらの論考によってかなりウィルクス版の出版状況を明らかにできたと言える。単行本の『「アーサー王物語」に憑かれた人々―19世紀英国の印刷出版文化と読者』においては、『アーサー王の死』の1816年版二版と1817年版、および1868年のグローブ版の出版をめぐる各界の裏事情を、未刊行資料を活用しまとめることができた。これら3点の研究成果によって、本助成による研究計画の基本となる19世紀中葉までのマロリーのテクストの出版経緯を明らかにすることができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本助成による当初の予定では、4年間にわたる研究計画で研究2年度から19世紀中葉以降の『アーサー王の死』のテクストの出版社であるマクミラン(1868年版と1900年版)とデント(1893-94年版と1897年)の資料収集と分析に入る予定であったが、上述のように、出版刊行の機会をえられたので、計画を変更し、研究期間前半では、1816年版と1817年版、1868年版についての分析とまとめに傾注した。その結果、1816年ウィルクス版についてはかなりの詳細な印刷業の生業と出版状況の分析が可能となったので、これらの論考を土台として、今後英文書籍としてまとめるべく、さらに緻密な議論が可能となるように詳細を詰めていきたい。今回の調査によって、ウィルクス版に関して通説とは異なる事実関係が明らかになったので、英文で海外誌に順次発表したい。これによって、これまでの書誌記述とヘイズルウッド像の修正を迫りたい。 コロナ禍の影響で控えていた大英図書館と出版関係資料の現地調査も、2023年度から再開したいと考えている。マクミランとデントの文献・アーカイブ資料を確認し、両社の出版・販売戦略や出版業者と編者と読者層から考察したい。出版史の調査と並行して、1816年版と1817年版刊行前夜にみられた書物収集熱や相次いで創設されたブッククラブ、とくにロクスバラ・クラブや好古家協会の記録を調査し、自国の歴史・文学の復興機運の様相を探る。この調査を通じ、本研究の第2の眼目である、マロリーの『アーサー王の死』がどのように評価され、英文学史上正典として定着したのかという点について、中世主義や英学研究、ナショナル・ヒストリーの観点から研究を深めまとめたい。
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Causes of Carryover |
繰り越しが生じたのは、申請時に予定していた海外調査をコロナ禍の影響で控えたため。
2023年度はコロナ禍の影響で控えていた大英図書館と出版関係資料の現地調査を再開したいと考えている。円安と旅費の航空運賃・宿泊料金の上昇の影響から、ロンドンへの調査は多額の研究費が必要となることが予想される。繰り越した助成金は調査費にも充当したい。また、中世主義や英学研究、ナショナル・ヒストリーの観点から研究を深めるために、文献資料の収集と購入にもあてたいと考えている。
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