2021 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イギリス公共圏文化のナショナル/トランス・ナショナルな多層性に関する研究
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21K00350
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
吉田 直希 成城大学, 文芸学部, 教授 (90261396)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イギリス公共圏 / 財政=軍事国家 / コーヒーハウス / ジャコバイト |
Outline of Annual Research Achievements |
18世紀イギリス公共圏は、合理性、礼節、審美的感受性を特徴とするシャフツベリー的利他性とマンデヴィルが説く性的情念と金銭欲に支配された利己性が複雑に混ざり合った世界である。こうした公共圏の利他性/利己性の混淆がもつ政治的意味を20世紀の歴史化と接合するために、ジョン・ブリュアの「財政=軍事国家」論を検討した。そこから、イギリス公共圏文化の多様性をナショナルな側面とトランス・ナショナルな側面から捉え直していくさまざまな先行研究を収集し、それらをテーマ別に整理し精読した。主たるテーマは、【1】中間団体によるナショナルな公共圏【2】トランス・ナショナルな消費文化【3】長い18世紀の歴史化という3点であり、これらを総合して、イギリス公共圏文化の歴史的研究の方向性を検討した。 今年度は特に、中間団体によるナショナルな公共圏の形成をコーヒーハウス批判の言説を出発点に検討した。18世紀イギリスでの財政=軍事国家成立を可能とした中間団体としてコーヒーハウス公共圏を取り上げ、この領域が、階級・人種・ジェンダーの多層性を特徴としつつも、特にジェンダー的意識によってナショナルな共同体意識を醸成していった歴史的変遷を検証した。また、ハーバーマスの公共性概念を新しいナショナリズムの観点から修正するために、フランスへ亡命したジェイムズ2世を王位継承者とみなすジャコバイトの文学的表象の系譜を分析し、民衆のモラル改善を目指す中間層によるフォーラム形成の歴史的意義に関する先行研究を収集し検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により予定していた調査、研究会が延期、中止となったため。
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Strategy for Future Research Activity |
18世紀イギリスにおける戦争と財政の関係性を明らかにするため、軍事的ロジスティックスを最重要課題とする軍事革命とその財源を確保するために消費税を拡充したウォルポールの文学的表象を分析し、財政=軍事国家が「フォーラム」としての文化的公共圏内の様々な矛盾・対立関係によって成立していく歴史的過程を明らかにする。さらに、議会政治と宗教の関係については、アン女王時代(1707-14)に、ホイッグとトーリ両党が宗教を軸に対立していく歴史的過程と国教会内部の高・低教会の二極化とメソディズムの誕生についても考察する。その上で、国教会方式による結婚を理想化する「小説」のイングリッシュネスを明らかにし、公共圏文化へのナショナルな公権力介入と抵抗の歴史を精査する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で予定していた調査、研究会が延長、中止となったため。
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