2021 Fiscal Year Research-status Report
日米演劇におけるインターカルチュラリズム:テネシー・ウィリアムズを起点として
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21K00358
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
坂井 隆 福岡大学, 人文学部, 准教授 (90438317)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テネシー・ウィリアムズ / 歌舞伎の女方 / 三島由紀夫 / 六代目中村歌右衛門 |
Outline of Annual Research Achievements |
1960年代のTennessee Williamsの実験的演劇作品を、日本とのインターカルチャー的対話の産物として考察することを目的とする本研究において、初年度(2021年度)は、日本の伝統演劇がWilliamsにもたらした影響を調査した。 その成果の一部を日本英文学会第93回大会シンポジウム第8部門「舞台をめぐるアメリカ、アイルランドと日本ーー伝統と革新を再考する」(2021年5月23日)で発表した。発表題目は「能と歌舞伎のクィアな交雑ーーTennessee Williamsの「東洋」演劇を読む」である。登場人物や俳優の「老い」を美学化する能や歌舞伎の伝統をWilliamsが引継ぎ、さらにWilliamsは、その伝統を、三島由紀夫の「グロテスク美」の概念や歌舞伎の女方である6代目中村歌右衛門の演技を参照しながら、変容させ、自身の劇作に応用していたことを明らかにした。 この研究成果を英語論文("Onnagata, Grotesque Beauty, and Aging: Reading Tennessee Williams's Kabuki-inspired Plays")として纏め、国際的な査読ジャーナルModern Drama (University of Toronto Press)に投稿した。論文は採用となり、2022年度中に出版される見込みである。欧米における日本の伝統演劇の受容の事例を英語圏のアカデミアに発信できたという意味で、この研究成果は大きな意義をもつといえる。 初年度に実施した研究の過程で次年度以降の研究にも有益な情報を多く得ることができた。特に日本近代演劇における「女方」と「女優」の役割に関する学術的知見は、2022年度の研究計画(Williams作品の日本での受容研究)を遂行する上で大いに役立つと思われる。まだ成果として形にはしていないが、研究計画を先取りして調査を開始したという意味で特筆に値する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究成果をシンポジウムでの口頭発表という形で公表し、それを英語論文として纏め、海外査読誌に投稿することができ、結果、採用された。よって、「おおむね順調に進展している」と評価した。研究業績の質という点から見れば、「当初の計画以上に進展している」と報告してもよいのだが、当初、予定していた海外での調査(ニューヨーク市内での劇場調査とNew York Public Libraryでのアーカイブ調査)が世界的なパンデミックが原因で実施できなかったので、ひとつ下の評価で報告している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、次の研究計画、つまり、日本演劇界でのTennesee Williams作品の受容研究に取り組む。具体的にはWilliamsの代表作A Streetcar Named Desireの日本初演(1953年)において主演の杉村春子が「女」としてのヒロイン(Blanche DuBois)をどのように演じたのか、新派の女方俳優花柳章太郎や新派女優初代水谷八重子からの影響を視野に入れて考察する予定である。その研究成果を2022年10月開催の日本英文学会九州支部大会で発表することがすでに決まっている。 また、一般の日本人読者を対象とした、アメリカン・ミュージカルの概説本への寄稿依頼があり、「身体」を切り口にして複数のミュージカル作品を考察する章を執筆する予定である。2022年12月中旬が現時点での原稿締切となっている。当初の計画には無かった取り組みであるが、日本での翻訳上演も調査する必要があり、本研究課題「日米演劇のインターカルチュラリズム」にも関連すると思われる。さらに最終年度の総括的研究(Williamsと日本演劇との関係を日本と(英)米演劇の交流史の中に再文脈化するための調査)を進めるための批評的視座も提供してくれるものと期待している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、当初計画していた海外での調査(ニューヨーク市内での劇場調査と、New York Public Libraryでアーカイブ調査)が世界的なコロナ禍のために実施できなかったことにある。また、国内での学会もすべてオンラインに切り替わり、出張費が必要でなくなったことも理由のひとつである。2021年度に使用できなかった助成金については次年度(2022年度)に海外調査を複数回実施することによって消費し、2021年度に発生した調査の遅れを取り戻したい。ただし、コロナ禍が終息しない最悪のケースも想定し、その場合は、2021年度に使用できなかった研究費を、必要となる高額資料(古書や一次資料)の購入に充てる予定である。2022年度は日本の新派や新劇についてもアーカイブ調査を実施する予定であり、その過程で多くの一次資料が必要になってくると思われる。
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