2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study of the Representation of Children in Contemporary British Fiction
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21K00364
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
越 朋彦 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (70453602)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 子ども表象 / 現代イギリス小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、子どもを中心的主題とする現代イギリス小説の中から二作品を取りあげ、「子ども(らしさ)」の構築性の問題について検討した。 (1) イアン・マキューアン『セメント・ガーデン』(Ian McEwan, The Cement Garden, 1978)・・・この小説において、ロマンティック・チャイルド(本来的に善良で無垢な、大人にとっての範ともなり得る理想的な子ども)の人工性がどのように解体されているのかを明らかにした。具体的には、(1)子どもの自己充足性, (2)閉じられた空間, (3)視覚的経験の強調というロマン派的なモチーフ/トポスが主人公兼語り手の少年の造形を通じてパロディ化され、書き直されている点を検証した。結論として、『セメント・ガーデン』はロマンティック・チャイルドの脱構築によって「ゴシック化された子ども」(社会秩序にとって脅威となり得る危険な子ども)という新たな子ども像を提示していることを解明した。 (2)ドリス・レッシング『破壊者ベンの誕生』(Doris Lessing, The Fifth Child, 1988)・・・怪物的な子どもとしての主人公ベンの表象をテクストに即して分析することで、「子どもらしい子ども」の構築が「排斥」の論理を通じて行われることを明らかにした。本作においてベンは様々な領域やジャンルの言説から引き出された「絶対的他者性」のイメージを付与され、彼の兄姉たちが代表する「子どもなるもの」の規範から逸脱した存在として表象される。この点を踏まえ、子ども社会学の第一人者クリス・ジェンクスの議論を援用しながら、子どもらしさの構築と骨がらみである「概念的排斥」の問題を主題化した作品として『破壊者ベンの誕生』を読み解いた。 (1)および(2)の研究成果を論文としてまとめ発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況はおおむね良好である。その理由として、文献収集・読解が順調に進み、理論的な枠組みを早い段階で十分に構築できたことが挙げられる。とりわけ、Katherina Dodou, "Examining the Idea of Childhood: The Child in the Contemporary British Novel," in Adrienne E. Gavin ed., The Child in British Literature: Literary Constructions of Childhood, Medieval to Contemporary (Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2012)や、Chris Jenks, Childhood: Second Edition (London and New York: Routledge, 2005)といった重要文献を丹念に読み込み、その成果を作品の分析に活かせたことが大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には、新たに以下の二作品を取りあげ、現代イギリス小説における子ども表象の特徴を具体的に明らかにしていく。 (1)ニック・ホーンビィ『アバウト・ア・ボーイ』 (Nick Hornby, About a Boy, 1998)・・・本作の主人公の一人、12歳の少年マーカスは、自殺傾向のある母親と(機能不全の)単親家族を形成しつつ、他方で遊び人の中年男性(もう一人の主人公ウィル)の中に代理父を見出し、疑似親子的な関係を発展させていく。現代的な複雑化した家族形態の中で生きるマーカスは、近年の家族社会学が強調する子どもの「レジリエンス」を体現するかのように、母親と疑似父双方との間に「年齢の逆転」に基づいた関係を結び、悩みながらも成長を遂げていく。本研究では、(ポストマンが言うところの)「子ども化された大人」と「大人化された子ども」 である二人の主人公が互いの逸脱的属性を交換することで、それぞれの年齢集団に相応しい人間(標準的な「大人」と「子ども」)へと変容を遂げていくことを解明する予定である。 (2)トビー・リット『デッド・キッド・ソングズ』(Toby Litt, deadkidsongs, 2001; 未邦訳)・・・本作では、新しい子ども社会学がしばしば批判の対象とする「発達論的子ども観」が解体される。つまり、この小説では子どもの成長を単線的発達と見なす本質主義的な観点が、ビルドゥングズロマン(教養小説)的物語構造の転覆を通じて退けられるのである。『デッド・キッド・ソングズ』における子ども時代の物語は、大人としての安定した確固たるアイデンティティの獲得へと収束することは決してなく、互いに矛盾する破綻した二重の結末をもって終わる。本研究では、ビルドゥングズロマンに内在する目的論的な子どもの発達モデルがこの小説において形式・内容の両面で無効化されていることを検証してみたい。
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Research Products
(2 results)