2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00366
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
石倉 和佳 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10290644)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | イギリスロマン主義 / 太平洋 / ハワイ / カナダ西岸 / 航海記 / ジョージ・バンクーバー / イギリス海軍 / S. T. コールリッジ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イギリス・ロマン主義期の文学作品に現れた太平洋表象を考察するものである。同時代資料の検討の結果、ロマン主義期の作品として同時代に記述された航海記類も視野に入れることが望ましいことが分かったため、特にジョージ・バンクーバーの航海記を中心に考察を展開してきた。R3および R4は主にバンクーバーの航海記と同時代資料との関係を考察し、一定の成果をあげることができた。R5年度は、S.T. コールリッジの「老水夫の歌」を取り上げ、これまで取り上げられてこなかったこの詩の同時代書評、バウンティ号の反乱で知られるブライ海尉の航海記、バウンティ号の反乱の首謀者であるフレッチャー・クリスチャンなどとの関係から考察した。また、コールリッジのクライスツ・ホスピタル時代の数学教師であったウェールズからの影響、ワーズワスとクリスチャンとの関係なども考慮に入れて考察した。これらの同時代的影響は、コールリッジの詩作のプロセスにおいてプラトニズムの世界観の中で鋳なおされることになる。「老水夫の歌」に関するプラトニズムの影響はこれまである程度の研究の積み上げがあるが、コールリッジがネオプラトニズムの思想家たちについて大学時代から晩年に至るまでどのように考察したかという時間経過を伴う考察は、「老水夫の歌」の改変が晩年まで続くことを考えると重要であり、今後も検討していく予定である。 このように本研究では、「太平洋表象」として実体化しにくいロマン主義作品の太平洋に関する様々な要素を、複合的な視点から考察してきた。本研究のアプローチで重要となるものは、文学作品として文学研究のシステムの中で規定されたものに限らず、より広く同時代的に意義があると考えられるものをとり入れる点である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は海外での資料収集をインターネットを通じて行った他、同時代資料として新聞資料などを収集した。イギリスロマン主義作品の中で、作品中に「太平洋」が言及されている作品として、S. T.コールリッジの「老水夫の歌」を取り上げ、コールリッジの交友関係を中心に作品の背景を再考し、バウンティ号の反乱からヒントを得た海の物語が、プラトニズムの宇宙観が全面に出るものに変質していったと考えられる点について論じた。このように、イギリスロマン主義作品と太平洋というテーマで一定の成果を出すことが出来た。 研究成果は研究会を開いて発表した他、科研費による発行である『カルチュラル・グリーン』に掲載した。以上のことから、おおむね順調に研究をすすめることが出来ている。
|
Strategy for Future Research Activity |
R6年度は最終年ととなるため全体を総括するとともに、ロマン派の詩人としてバイロンを取り上げて考察したい。また、ロマン主義期にイギリスにもたらされた太平洋諸島の民族的物品(籠、楽器、武器、面、織物、マントなど)が19世紀にどのように収集、展示されていったかを調査する。これは、太平洋表象の影響を文学作品で辿ると考えると作品が限定されてしまうのに対して、意匠・デザインの面からの影響を広くとらえることで、意識的、無意識的に太平洋諸島からもたらされた文化的事物にたいしてどのように対応していたかということが明らかになると考えるためである。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、海外での資料調査および研究発表を行わなかったことが大きい。海外での活動は渡航費および滞在費の高騰、および大英図書館のシステム障害などがあり見合わせたが、その代わりに、日本からの郵便やインターネットを通じた調査を行い、研究発表は国内だけとした。また、資料整理に学生バイトを雇うための予算を計上していたが、今年度は雇用しなかったため繰り越しとなった。海外の調査は事情が許せば今年度に行い、またアルバイト雇用は今年度予定している。
|