2021 Fiscal Year Research-status Report
The Latinity of Reginald Pecock (c. 1395-c. 1461)
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21K00369
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井口 篤 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 准教授 (80647983)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | レジナルド・ピーコック / スコラ哲学 / 無限 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、レジナルド・ピーコックのスコラ哲学における先駆者について本格的に探求する手始めに、ピーコックが無限性についてどのように考えているかについて取り組んだ。具体的には、人間は認識によって神という超越者を捉えることができるのか、という問題に関して、ピーコックが『キリスト教の原理』(“The Reule of Crysten Religioun”, 1443年頃) においてどのように考えているかについて調査した。中世の神秘主義者たちは、恍惚とした状態で神と合一する忘我の境地を描いたが、ピーコックがこの著作で俗語読者たちのために描き出すのは、理知的でアカデミックな神との出会いである。『キリスト教の原理』においてピーコックは、神の存在証明を行っているが、この証明においてピーコックは、トマス・アクィナスやドゥンス・スコトゥスなどの先行者たちから「存在の連鎖を無限に辿ることはできない」という「無限後退の不可能性」を受け継いでいることがわかる。ピーコックは人間は自然に備わった理性を駆使して、一歩一歩着実に神へと認識の上で近づいていくことができると主張しており、彼の「造られなかった創造主」(‘a maker vnmaad’) の存在の証明には、人間の「理性の判断」 (‘dome of resoun’) への楽観的な信頼が満ち溢れている。このように理性によって造物主へ遡行できるとするピーコックは、神の無限性を立証する箇所において、有限な線や立体を想像力の中で徐々に大きくしていくことによって、無限である神の存在についての理解が得られると言っている。ピーコックはあくまで楽観的に「理性の判断」を拠り所として、経験や感覚的知識から絶対者へと歩み寄ろうとするのである。ピーコックは神を認識する際の人間の理性の限界を意識していたスコトゥスよりもさらに理性重視の態度を推し進めていたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初の予定においては、2021-2023年度は、ピーコックが彼の全6著作において論じる各テーマのうち、先行するスコラ神学者たちも盛んに論じたもの、例えば「神が存在することをどのように証明するか」、「神は努力する人間を救済するのか」、「意志と理性はどちらが優越するのか」などについて、 アクィナス、スコトゥス、そしてさらにオッカムなどの神学者たちの著作において対応する部分との体系的で仔細な対照研究を行い、この比較作業の成果を、国内外の学会や学術雑誌で順次発表する予定であった。2021年度は概ねこの計画に沿って研究を進め、ピーコックにおける無限性の概念や救済論などについて、論文にまとめることができたため、順調に進行していると言ってよいだろう。ただし、コロナ禍のせいもあり、研究の成果を諸学会で口頭で発表して同輩の意見を仰ぐ、ということが当初の予定ほどできなかった。2022年度は、ピーコック研究を進め、かつ成果を論文にしつつ、同時に学会や研究会などで発表し、活発に議論を行うことで研究の更なる深化を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も地道にしかし着実に、ピーコックの著作とトマス・アクィナスやドゥンス・スコトゥスなどの著作との比較を綿密に続け、ピーコックが俗語で展開した思想がどの程度ラテン語スコラ哲学の先駆者たちの影響下にあるか、そしてどの程度その影響から自由であったのかについて研究していくつもりである。また、前述の通り、2021年度は、2本ほどピーコック関連の学術論文を執筆することができたが、口頭での意見交換を行なって議論を洗練させることができなかった。このため、2022年度は、ピーコック研究を随時途中経過として論文の形で発表する傍らで、学会や研究などで口頭発表する機会を積極的に求め、同輩と活発に議論を行いたい。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナ感染拡大が未だ終わりを見せず、学会や資料調査で国内・国外へと出張にいくことがままならなかったため、予定していた旅費の支出を次年度に繰り越すことになりました。
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Remarks |
「ここが無限だ,ここで跳べ-レジナルド・ピーコック (d. 1459) と神の存在証明-」と題する約15,000文字の論考が、2022年12月に知泉書館から出版される『旅するナラティヴ-西洋中世をめぐる移動の諸相』に収録される予定です。
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Research Products
(1 results)