2022 Fiscal Year Research-status Report
The Latinity of Reginald Pecock (c. 1395-c. 1461)
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21K00369
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井口 篤 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 准教授 (80647983)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | レジナルド・ピーコック |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、15世紀イングランドの神学者レジナルド・ピーコックの思想について研究を進めている。2022年度は、研究の途中経過を日本中世英語英文学会の全国大会で発表することができた。この発表においては、目下とくに注目している問題、つまりピーコックが著作で展開している論理上・議論上の戦略について検討した。取り上げた作品は『キリスト教の原理』と『聖職者を過剰に批判することに反して』である。 ピーコックにとって、神学議論において最も効果的な道具は三段論法 (syllogism) であることは古くから研究者たちによって指摘されてきた。しかしピーコック自身は、神の存在証明や、他の重要な神学問題が、スコラ神学において規範であったこの論理手法によって証明されるべきだとは必ずしも考えていないように思われる。実際、ピーコックは神の存在については、「ありそうである」(‘probable’, ‘likely’) であることが証明できれば十分だと考えていたことが、上述の2作品の分析から明らかになる。 このように考えると、重要な帰結が導かれるであろう。ピーコックは私たち人間が神によって与えられた「自然の力」(‘natural powers’) を行使することによって神の理解に到達できると考えていたのではないだろうか。つまり、私たち人間は、神に関する様々な問題について考え議論する際に、「神の証明」(divine illumination) に頼る必要はないとピーコックは言っているのではないだろうか。 このように、2022年度においては、ピーコックの神学体系は三段論法を重視しているように見えて、実はこの三段論法からこぼれ落ちてしまうような問題に気づいており、そのような問題をピーコックは拾い上げようとしていたのではないかという可能性について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在のところ、ピーコック神学の論理体系について、先行研究では指摘されなかった問題について時間をとって検討することができたという点、そして、特に注目することを考えていなかった『聖職者を過剰に批判することに反して』に興味深い問題を考えるきっかけがあることに気づいた点においては、十分納得のいく成果を得られていると考えられる。 しかし同時に、当初の目的であった「ピーコック神学のラテン語性」に関する調査については、満足のいく調査ができているとは言い難い。これは、ピーコックの神学がもつ論理構造や証明の仕方などに関心がわずかに移行して、そちらに時間を取られたためにやむを得ないことではある。しかし、このピーコック神学の論理構造の問題についても、やはりピーコックがどこまで独創的であったのかについての判断が求められることになる。このため、ピーコックの先達であるスコラ神学者たちのラテン語著作とピーコックの英語著作とを比較する必要があることは言うまでもない。 また、研究の途中経過を論文・著作として発表する作業も、進めてはいるが成果として出版することができていない。 以上のような理由から、現時点での研究の進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、2023年度は、ピーコック神学とそれに影響を与えた可能性の高いラテン語神学の著作との比較研究を推し進めていきたい。とくに、ドゥンス・スコトゥスやウィリアム・オッカムのラテン語著作との比較調査を集中的に行う予定である。また、本年度中に研究の途中経過について、学術雑誌に発表していきたい。
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Causes of Carryover |
2022年度にはイギリスでの調査出張を予定していた。しかし、学内の業務の関係で、予定していた時期に渡英することができなくなった。また、航空費や物価の高騰により、1年度あたりの配分額400,000円では、まとまった期間イングランドで調査をすることが難しい状況である。このため、2022年度に使用しなかった予算を2023年度に繰り越して調査出張の旅費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)