2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00373
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川崎 和基 日本大学, 工学部, 准教授 (90409037)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 宗教的寛容 / 霊魂睡眠 / 事前検閲制度 / トマス・エドワーズ / ジョン・カルバン / ウィリアム・パーキンス / リチャード・オーバトン / ジョン・ミルトン |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は,昨年度に引き続き,星室庁が設置された1487年から1641年の廃止までの間,王政政体維持の脅威となったものを検証し,制定された政令とその機能を探った.特に,急進的思想を探るうえで,マルティン・ルターやウィリアム・ティンダルが主張した,魂は死後,肉体と共に墓で眠るというpsychopannychism,ジョン・カルバンやウィリアム・パーキンスが主張した,死後,肉体は墓にあり,魂は眠ったような状態で天国へ行くというpsychopannychia,トマス・ホッブスやリチャード・オーバトンが主張した,死後,肉体と魂はどこにも行かず,ただ墓の中にあるというthnetopsychismを前年度に引き続き検証した.特に,長老派のエフライム・パジェットやエドワーズは,オーバトンが主張するthnetopsychismを異端視したが,その異端性とジョン・ミルトンのMortalist Heresyについて纏めた論考を日本ミルトン協会第17回研究会「魂はなぜ眠るのかーMiltonとMortalist Heresy」(2022年12月17日)で発表した.また,異端思想抑制のため星室庁とウイリアム・ロードが利用した事前検閲制度と書籍出版業組合の機能を検証するため,「出版に関する星室庁令」 (1637)を中心に検討し,さらに星室庁崩壊後の噴出した出版物と,検閲制度の存続を,ミルトンがAreopagitica(1644)で非難した議会のAn Ordinance for the Regulating of Printing(1643)を中心に検討し,異端思想抑制を意図した事前検閲制度の機能について纏めた論考を十七世紀英文学東北支部例会「パンフレット戦争の黎明-Areopagiticaと出版物検閲制度をめぐって」(2023年3月28日)で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
星室庁や書籍出版業組合が検閲により認可・不許可した出版物を前年度に引き続き検証しつつ,急進的人物や思想の存在を浮き彫りにするために,特に不許可となった出版原稿を発見し,出版事情を再検証する予定であったが,Early English Books Onlineで検索可能の資料は収集することはできたものの,コロナ禍のなかで,海外渡航ができず,予定していた大英図書館やハンティントン図書館等での一次資料の収集が引き続きできなかったため,進捗状況に影響を与え,上記の理由となった. 前年度に引き続き星室庁が設置された1487年から1641年の廃止までの間,制定された政令とその機能をさらに探り,C H Firth and R S Rait編の“Acts and Ordinances of the Interregnum, 1642-1660”で,1642年から1660年までの法令により抑圧されている思想を分類し,関連する人物の検討をした.また,1637年の「出版に関する星室庁令」による検閲制度の強化から1641年7月5日の星室庁廃止までの書籍出版業組合の権限の強化にいたる過程を検証し,異端思想抑制に書籍出版業組合が果たした機能を検討した.そして,星室庁廃止に伴う事前検閲制度の緩みで噴出した出版物を探り,さらに議会により発布された検閲令の機能を検討した. 日本ミルトン協会第17回研究会「魂はなぜ眠るのかーMiltonとMortalist Heresy」(2022年12月17日)で内乱期に異端視されていた霊魂睡眠説ならびに霊肉死滅節を廻る思想の検討成果を発表した.また,事前検閲制度と書籍業カンパニーを利用した異端思想抑制政策とその機能を検証し,十七世紀英文学東北支部例会「パンフレット戦争の黎明-Areopagiticaと出版物検閲制度をめぐって」(2023年3月28日)で検討成果を発表した.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,事前検閲制度の機能が緩んだ1641年から数年間で出版された出版物を中心にして急進的人物と思想を探るために,エドワーズの『Gangraena』で言及される138名の異端的人物と300の異端思想をEarly English Books Onlineなどで収集した一次資料に基づき分析・分類する. また,前年度十分行うことができなかった一次資料の収集を大英図書館などで行い,特に,急進的人物や思想の存在を浮き彫りにするために書籍出版業組合が認可を与えなかった出版原稿をさらに探りながら,異端思想と異端視された人物の再考を行い,セクト分類研究への基盤を構築する.さらに,異端思想抑制が行われる一方で,異端思想とそのセクトの存在が内乱期前後にどのような影響力を持っており,政体を脅かすものになりえたのかを分析し,次年度の宗教的寛容の異端性検討の基盤を築く.
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために,前年度に引き続き,一次資料収集を予定していた大英図書館やハンティントン図書館に出張することができなかったために使用計画に変更が生じた.そのため,次年度の大英図書館等での一次資料収集のための使用を計画している.
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