2023 Fiscal Year Annual Research Report
The Victorian Zeitgeist and Threats in the Works of Dickens: A Social-Psychological Study
Project/Area Number |
21K00386
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 光治 名古屋大学, 人文学研究科, 名誉教授 (70181708)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ヴィクトリア朝 / ディケンズ / 脅迫 / 『骨董屋』 / 時代精神 / 社会風潮 / 社会心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
補助事業期間の最終年度である2023年度は、研究課題名である「ヴィクトリア朝の時代精神とディケンズ文学における脅迫の社会心理学的研究」の仕上げとして、「理由なき脅迫?――『骨董屋』における権力と想像力」という論文を『名古屋大学人文学研究論集』の第7号(2024年3月31日発行、129-148頁)で発表した。本論文では、ヴィクトリア朝の時代精神を色濃く反映したディケンズの前期作品群の代表作で、個人の自由意志を守るために設けられた脅迫罪への言及――「脅迫することは正式起訴で訴追される犯罪である (to threaten is an indictable offence)」(269)――が見られる『骨董屋』(_The Old Curiosity Shop_, 1840-41)を議論の俎上に載せ、明示的・暗示的に描かれた支配者側に立つ個人および集団の抑圧的権力――現実世界で理性と知性を標榜し、自らの幸福と利益を価値基準として強制する権力――の行使による「脅迫」について、当時の主要ジャーナルや非文学領域の文献における言説とも比較検討しながら社会心理学的な観点から分析した。産業革命後の急激なパラダイム・シフトによって生じたヴィクトリア朝の新たな社会風潮の中で従来の脅迫が変質した経緯と理由を明らかにすることによって、グローバル化の急激な進展と国際競争の激化の波にさらされた現代の日本社会――特に高速データ通信のインターネット時代において従来の人間関係を変質させたSNS(会員制交流サイト)の仮想空間――に見られる匿名の悪意を伴った脅迫という喫緊の社会問題の改善に寄与できる。
|