2021 Fiscal Year Research-status Report
1850年代及び1860年代のオーストラリア女性移民表象と国民意識形成の研究
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21K00391
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
豊島 麗子 琉球大学, 国際地域創造学部, 教授 (30295290)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | オーストラリア女性移民 / 19世紀オーストラリア文学 / 国民意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の基盤となる19世紀の英国から植民地への移民推進に重要な影響のあった政治的・経済的・社会的・文化的コンテクストを、帝国主義、植民地主義、自由貿易論争、産業革命、マルサスの人口論、ダーウィニズムに注目して概括した。植民地獲得・建設に対する経済的動機は突出しているが、それは社会的・科学的・文化的観点からも説明され、植民地への移民を相乗的に推進する力となっている。オーストラリアは英国の経済システムを担う重要な植民地でもあると同時に18世紀末から刑罰システムを含む英国内の社会問題解決の場としても機能している。 英国政府は植民地共同体発展のため、(女性)移民政策を推進した。本研究の課題である女性移民のアイデンティ・国家意識形成の研究において、国家事業であるオーストラリア女性移民の意味付けと女性移民自身の意識を把握することは基本かつ重要であるため、移民の動機及び「家庭の天使」、「神の警察」、「中流階級文化の継承者」といった女性移民の役割に関し、先行研究を踏まえてさらに追究した。また、オーストラリア・ニュージーランド女性移民の多様な経験と意識を、日記や手紙を通して考察し、女性移民が植民地の様々な場所で植民地社会の問題や自身のアイデンティティの問題に向き合っていることを明らかにした。 以上のように、一年目は19世紀英国社会の様々な状況・言説が相互に関連・影響している植民地への移民という潮流を精査し、本研究の基盤をととのえた。また1850年代のゴールドラッシュ期のオーストラリア女性移民の多様・複雑な経験と意識を考察し、帝国主義に対する抵抗を探っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主な計画のうち、一つは概ね順調に進んだが、もう一つは、手紙、日記、回想録等の一次資料収集が不十分で、女性移民のライティング分析を計画通りに進められなかった。コロナ禍の影響もあるため、現状における効果的な資料収集の方法の検討・習熟に取り組む必要がある。 主要計画の一つは移民言説に重要な影響のあった政治的・経済的・社会的・文化的コンテクストの考察である。帝国主義と植民地主義、自由貿易論争、産業化、マルサスの人口論、ダーウィニズムの精査を通し、英国が18世紀から様々な課題を解決する場所として植民地を必要としていた状況を理解するとともに、それらがどのようにオーストラリア移民という国家事業に発展し、どのように女性移民の意味付けを行ったかを考察した。さらに、オーストラリア女性移民に関する資料及び先行研究を再読し、国家事業としての女性移民の目的と役割、中流階級女性移民協会の活動、英国社会及び植民地社会における女性移民に対する考え・態度、「余剰の女性」問題等を検討した。 オーストラリア女性移民の多様な経験と1850年代の女性移民の意識・役割・経験を継続して追究する。また、19世紀イギリス文学におけるオーストラリア女性移民の表象分析とゴールドラッシュから1860年代の女性移民によるライティング読解を通し、女性移民表象とライティングが帝国主義をどのように承認あるいは抵抗しているか、継続して考察・分析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では微調整を除き研究概要及び実施計画の修正は行わず、研究により集中するとともに環境整備に努める。インターネットを活用したリサーチスキルアップも目指す。 本研究の課題をより多面的に検討するため、オーストラリア女性移民だけでなく、同時期のニュージーランド女性移民のライティングも取り上げ比較考察する。また1850年代のゴールドラッシュ時に多数流入した中国人労働者が女性移民の経験・意識に与えた影響も探っていきたい。
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Causes of Carryover |
ノート型パソコンの購入(単価15万円)を次年度に繰り下げたため。 次年度に当該商品を購入予定である。
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