2021 Fiscal Year Research-status Report
ロスト・ジェネレーションの詩学と「危機の20年」の文学的社会史
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21K00393
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
吉田 朋正 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (40305404)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | モダニズム / メディア論 / 1920年代 / 1930年代 / 現代芸術 / ロスト・ジェネレーション / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、初年度は一般に"lost generation"の呼称で知られる1920年代の文学者・芸術家たちの動向を政治・経済史的観点からトレースすべく、基本的な歴史的資料の再調査や新たな資料の開拓を行った。過去にも行ってきたM. Cowley, Edmund Wilsonなどの文芸ジャーナリズム周辺の調査に加え、Kay Boyle, Eugene Jolasなど、研究の過程で新たに精査が必要となった個人について、主として伝記的・書誌的側面から集中的な調査を行っている。 また、特に今回の研究計画では、以前より行ってきたこうした歴史的調査に加え、当時の文化領域を実際に造り上げ、密かに条件づけていた政治・経済的な現実、加えてテクノロジーやメディアの実態を重要な調査対象としている。 これらに関しては、初年度は主として20世紀前半の渡欧者(特にフランス)を支えたアメリカ資本の基金や奨学制度の実態、また、アメリカ人が1920年代に欧州で発行した各種リトルマガジンの金銭的リソースなど、やや些末な事実面の調査に始終した。なお、こうした事実については系統だった既存の歴史記述があるわけではなく、具体的にはさまざまな人々の自伝や歴史的クロニクル、評伝、日記などをこつこつ読むことによって、少しずつ展望を拓いて行くほかないものであり、全体のプロセスにはいささか時間を要すると思われる。 他方、より一般的な知見を広げるという意味では、当時の電信技術や金融システムの技術的実態など、文化史において必ずしも第一義的に扱われるわけではないが、文化の重要な背景を成す各種インフラの実態や歴史的発展のプロセスについて、さまざまな書籍・論文に当たって調査を行った。これらは、研究代表者のもう一つの主要な研究課題である、メディア論への思想史的アプローチと関連が深いものであり、遠回りながら、着実な前進に繋がるものと期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は直接的な研究成果の公表に至っていないが、研究の骨子となるものは順調に組み立てられつつある。また、本研究計画とは異なるプロジェクトも同時進行中であるが、それぞれの相互関連性は高く、総じて研究の視点をより発展的に広げることに役立っている。全体として、研究は順調に進展しつつあるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当面、1920年代の欧州の経済的状況と、アメリカの芸術家たちの関係を祖述することを目指す。特にドイツ語で当時「ヴァリュータシュヴァイン」と呼ばれた、通貨の価値騰落に寄生した投機的旅行者たちと、当時欧州の地にあった(ヘミングウェイなどを除き、多くはまだ無名の)文学者・芸術家の関係を描くことを目的とする。
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Causes of Carryover |
年度中に入手予定であった機器(ノートパソコン、スキャナ)の購入を翌年以降に延ばしたため。これらは2022年度に購入予定である。
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