2022 Fiscal Year Research-status Report
ロスト・ジェネレーションの詩学と「危機の20年」の文学的社会史
Project/Area Number |
21K00393
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
吉田 朋正 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (40305404)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | モダニズム / ロスト・ジェネレーション / 第一次世界大戦 / 狂騒の1920年代 / 危機の20年 / メディア論 / 1920年代 / 1930年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、ロスト・ジェネレーションの呼称で一般に知られる文学者・芸術家たちの動向を政治・経済史的観点からトレースすべく、歴史的資料の調査や資料開拓を行った。M. CowleyやEdmund Wilsonなど従来の研究対象の継続的調査に加え、今年度は特にJames Joyceの作品の発表媒体にもなったリトルマガジン、Transitionに関わった文学者や知識人(Eugene Jolas, Harry Crosbyなど)を中心に新たな資料開拓や調査を行った。 本研究では当時の文化領域を実際に造り上げ、条件づけていた政治・経済的現実、テクノロジーやメディアの実態もまた広く調査対象としている。第一次大戦後の若い渡欧者を支えたアメリカ資本の基金や各種奨学制度、とりわけ若い芸術家たちを支えたGuggenheim Fellowshipsや、帰還した紳士志願兵のための各種奨学制度は、彼らの行動を説明ないし理解する上で欠かすことはできない。こうしたものについては系統だった歴史記述が存在するわけではないため、今年度も前年度に引き続き、さまざまな人々の自伝や歴史的クロニクル、評伝、日記などから実態を明らかにする調査を継続して行った。 また文化史において必ずしも第一義的に扱われるわけではないが、その重要な背景を成す印刷、電信、金融システムの技術的実態などについても前年度に引き続き幅広い調査を行っている。これは研究代表者のもう一つの主要な研究課題である、メディア論を通じた文学・芸術史の再検証とも関連したものであり、本研究期間中にはその派生的成果として執筆した、印刷メディアが20世紀前半のモダニズム詩に与えた影響を検証する荒木正純氏の大冊『『荒地』を掘る』の書評記事などを通じ、研究の歴史的文脈を再検証することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主要な研究成果の公表には至っていないが、研究自体は順調に進んでいる。これまでの調査・研究は同時進行している他の研究プロジェクト(メディア論を通じた文学・芸術史の再検証)とも有意義な形で結びつきつつあり、新たな発展的課題もいくつか見えてきた。残りの3年でこれらを検証できるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、1920-30年代の欧州およびアメリカの政治・経済状況の調査を行いながら、当時渡欧したアメリカ人文学者や芸術家の動向を精査する。また特に本研究期間中、研究代表者は別のプロジェクトとして現代的戦争論の翻訳等に関わり、その過程でいわゆる「ロスト・ジェネレーション」の作家たちが身を投じた第一次世界大戦の実態について、改めて精査の目を向ける必要性を感じた。今後は「狂騒の20年」に先立つこの戦争の実態についてもいっそう踏み込んだ調査を行い、ダダやそれ以降の芸術運動にこれがおよぼした影響について考察したい。
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Causes of Carryover |
予定していた一部の洋図書、資料データベース化のための非破壊型ブックスキャナ(もしくはデジタルカメラ等)の購入が今期中は難しいと判断し、予算を次期に当てることとした。
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