2021 Fiscal Year Research-status Report
Cultural Mobilisation of Shakespeare in Japan in the 1930s and 1940s
Project/Area Number |
21K00395
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
内丸 公平 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (50801495)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シェイクスピア / シェイクスピア受容 / 浦口文治 / 文化動員 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、これまで詳らかにされてこなかった1930年代から1940年代の日本におけるシェイクスピア受容を分析するにあたり、1930年代の浦口文治(英文学者)の『ハムレット』受容と解釈を取り上げて、同時代の緊迫化する時局を背景に読み解いた。考察を通して明らかになったことは、浦口文治がハムレットの行動の目的を「父の復讐」ではなく「政治の正義化」に見ていたこと、それに伴い、それ以前のロマン派的なハムレット表象を拒絶して、浦口の言葉を借りれば、「男性的」なハムレット表象を構築していったということである。浦口がそのようにハムレットを表象した遠因として、五・一五事件や二・二六事件などの非合法的暴力をキリスト者として厳しく批判しながらも、政治の正義化を目指すその破滅的な理念にどこかで同情を寄せており、それが反映されているのではないかということを明らかにした。一方で「政治の正義」に無関心で享楽にふける大衆の姿を道徳的責任からの逃走として批判を行なっていることを鑑みると、浦口はハムレットに「非合法的な暴力」と「無関心」の狭間で、悩み道徳的に正しくあろうとする姿を見ていたのではないかという仮説を提示するに至った。このように浦口は『ハムレット』を同時代の関心と結び付けて解釈していたことを明らかにできた。この研究成果は、2021年7月に開催された国際学会World Shakespeare Congress 2021で共同オーガナイザーをつとめたセミナー「Remembering war through Shakespeare」において予定通り報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、1930年台の浦口文治のシェイクスピア受容の考察が中心になったが、進捗状況はほぼ申請した研究実施計画通りである。研究発表もよてお通りである(当初から研究初年度の雑誌論文投稿は考えていなかった)。
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Strategy for Future Research Activity |
後の研究の推進方策も申請した研究実施計画に従って、浦口文治の『ハムレット』研究と浦口の『ハムレット』注釈本を読んで執筆された太宰治の『新ハムレット』を考察対象とする。具体的には、浦口の『新評註ハムレット』で同作を学んだ太宰治は『新ハムレット』で、浦口の解釈とは正反対の行動しないハムレット を前景化しており、浦口のハムレット像を学びつつも、それとはまったく異質なハムレット像を太宰が描いていたことを指摘する。このような「決める」から「決められない」ハムレット表象への変遷をカール・シュミットの『政治的ロマン主義』を応用しつつ、近代日本の精神的史と絡めながら考察を深めていく予定である。研究成果は、まず6月に国内で好投発表した後、国際ジャーナルに投稿することにしている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、国内外の学会が全てオンラインで開催されたこと、オンライン国際学会用のデスクトップPCが予想以上に安価で購入できたこと、資料調査出張を中止にせざるを得なかったことなどが理由である。翌年度は国内学会、そして国際ジャーナルに投稿予定である。コロナ禍の状況に左右されてしまうが、国際学会での発表も計画している。
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Research Products
(1 results)