2021 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカン・ルネサンス期の小説に見る病の隠喩
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21K00397
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
田島 優子 宮城学院女子大学, 学芸学部, 准教授 (40710934)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / アメリカン・ルネサンス / ナサニエル・ホーソーン / 病い / ロマンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、19世紀中葉アメリカン・ルネサンス期の作家、ナサニエル・ホーソーン、ハーマン・ メルヴィル、エドガー・アラン・ポーの作品を取り上げ、「ロマンス」と親和性の高い宗教的「善」/「悪」の観点から見ればネガティヴなものとして単純化されかねない病の隠喩を、「ノヴェル」の描く社会規範的「正」/「誤」の観点から読み直すことで、この隠喩の持つ複雑な文学的豊かさを明らかにすること、またアメリカ小説ロマンス説そのものを再検討することを目指している。 初年度にあたる2021年度は、アメリカン・ルネサンス期の主要作家によるロマンス作品を精読し、病がどのように表象されているかについて整理したが、特にナサニエル・ホーソーンの長編『七破風の屋敷』および『緋文字』について詳細に分析を行った。ここでは、中世以降医学や道徳哲学の分野で言及され、アメリカの文化史および文学史でも重要な意味合いを持っていた「シンパシー」に注目し、この概念がホーソーンのロマンスにある種のリアリズム的要素をもたらすものとして導入されているのではないかと仮定して検証を行った。ホーソーン作品のロマンスを再定義するために、同作家のロマンス論の中で言及される有名な「中間領域」と絡めて論じることとなった。 これらの研究の成果として『七破風の屋敷』についての論考は日本ナサニエル・ホーソーン協会東京支部例会にて口頭発表を、『緋文字』についての論考は宮城学院女子大学人文社会科学研究所の公開講演会での講演を行った。これらは来年度以降に活字にして出版する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響で2021年度は未だ海外への渡航が難しかったため、文献収集についてはオンラインで入手できる書籍・文献が中心となり、一次資料の収集や実地調査はできなかった。 このため初年度は、すでに文献が手元に十分揃っていたこともあって、主にナサニエル・ホーソーンの作品についての考察が中心となった。2つの論考について口頭発表・講演を行ったものの、書籍や論文としての出版にまでには至らなかったため、ペースとしてはやや遅れていると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
ウィズ・コロナ/アフター・コロナ時代に突入し、海外への渡航が困難な情勢が改善しつつあるため、2022年度は米国マサチューセッツの博物館(Peabody Essex Museum等)を訪れ、一次資料を収集し、調査を進めたい。ホーソーン作品には『大理石の牧神』など病の隠喩が見られる作品が他にもあるため、2022年度も引き続きホーソーン作品の分析が中心となるが、2023年度、2024年度に向けてポーやメルヴィル等に関する文献収集と精読にも着手したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で当初計画していた米国での文献収集・調査が困難となり、また国内外の学会への出張に関しても全て中止か遠隔となったため、旅費予算を執行できないこととなった。2022年度に入り、所属機関では国内外への出張が可能となったため、今年度は事情が許せば米国での文献調査を行いたい。
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