2022 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカン・ルネサンス期の小説に見る病の隠喩
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21K00397
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
田島 優子 宮城学院女子大学, 学芸学部, 准教授 (40710934)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / アメリカン・ルネサンス / ナサニエル・ホーソーン / 病 / ロマンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀アメリカン・ルネサンス期の作家による小説を取り上げ、「ロマンス」と親和性の高い宗教的「善」/「悪」の観点から見ればネガティヴなものとして単純化されかねない病の隠喩が、「ノヴェル」の描く社会規範的「正」/「誤」の観点から読み直せば複雑な文学的豊かさを持つ可能性を明らかにし、またこのことを通して「ロマンス」という文学ジャンルに新たな視座を与えることを目指している。 本研究の2年目にあたる2022年度は、ナサニエル・ホーソーンの作品、『ブライズデイル・ロマンス』(1852)および『大理石の牧神』(1860)を精読し、両作品で病がどのように表象されているかについて、特に女性登場人物に焦点をあてて検証を行った。まず『ブライズデイル・ロマンス』においては女性解放論者ゼノビアが、『大理石の牧神』においては殺人の罪に加担するミリアムが、それぞれ女性という「病」として描かれていることを検証した。これらの隠喩はホーソーン作品のロマンス性を支える役割の一部を担っていると考えられる。しかしその一方で、これらの女性は作品に「シンパシー」という社会的な問題をもたらしてもおり、ホーソーン作品を「ノヴェル」へと接近させることを明らかにした。上記は英米文学関連の学会誌への投稿を目指しているが、今年度はまずは博士論文の一部として英文の論考にまとめた。これは2月に九州大学にて博士論文公聴会での発表を行った。 また、時代区分としてはアメリカン・ルネサンス期の作家ではないものの、ポストモダニズム作家のカート・ヴォネガットの作品にもロマンスからノヴェルへの移行が見られることに着目し、検証を行った。『スローターハウス5』および『デッドアイ・ディック』を取り上げ、前者に関しては論文を日本アメリカ文学会東北支部の学会誌に掲載し、後者に関しては日本アメリカ文学会全国大会におけるシンポジウムで口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で扱うアメリカン・ルネサンス期の作家のうち、ナサニエル・ホーソーンの代表的長編作品についてはほぼ検証を終えたため、論考をまとめる作業としては予定通りに進んでいると考える。ただ、本年度も学内では厳重なコロナ感染対策が続いていたこともあり、海外への渡航はしづらい状況にあり、ボストン等の博物館等での資料収集や実地調査の実施までには至らなかった。また、ハーマン・メルヴィルやエドガー・アラン・ポーの作品の精読にはこれから着手することになるため、全体の進捗状況としてはやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は米国マサチューセッツの博物館等(Peabody Essex Museum等)を訪れ、一次資料を収集して調査を進めたい。ホーソーン作品に関しては検証が進んでいるため、今年度からはハーマン・メルヴィルやエドガー・アラン・ポーの作品や伝記等を集め、順次精読を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
2022年度は海外渡航に関しての制約はだいぶ少なくなったものの、所属機関ではコロナ感染対策が行われ、海外研修なども実施されていない状況にあったため、学内の基準に照らし合わせて海外出張を自粛せざるを得なかった。このため未使用額が多くなっている。2023年度、あるいは2024年度に海外出張を実施したいと考えている。
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