2023 Fiscal Year Research-status Report
The Role Keio University Played in the Early Modernist Context
Project/Area Number |
21K00398
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
巽 孝之 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (30155098)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 横浜正金銀行ロンドン支店 / 南方熊楠 / 小泉信三 / 巽孝之丞 / 慶應義塾大学 / 日露戦争 / 関東大震災 / 日仏銀行 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年 1月より慶應義塾ニューヨーク学院長という資格で長期間、英米圏に滞在できることになったため、地の利を活かし、日米慶應という” Triculture”をスローガンにした環太平洋文化研究のオムニバス講演シリーズに、北米東海岸の主要大学教授や作家、評論家を招聘し、日本研究とアメリカ研究が交差する拠点を作った。とりわけイエール大学教授のアーロン・ジェロウ、コロンビア大学名誉教授のポール・アンドラ、タフツ大学教授のスーザン・ネイピアといった代表的日本学者や、ホフストラ大学名誉教授ジョン・ブライアントといったメルヴィル研究の権威による講演と討議は実り多く、こうした討議では必ず、 日米文化交渉に福沢諭吉が占めていた位置を再認識するモメントが含まれた。したがって、学院の学術誌 Research Reviewには、そうした環太平洋的にして文化横断的な概念を、英語論文”Towards the Mission of Triculture: Japan, United States and Keio Gijuku” として発表した。 また、 2023年 9月にはハーバード大学新学長就任式に慶應義塾代表として招聘されたので、福沢諭吉以来のハーバード・コネクションについても「三田評論」に、論考「ハーバード大学第 30代学長就任式典:クローディン・ゲイ教授の横顔」として発表した。 また、学院ウェブサイトでも、本研究に関わるさまざまな考察、たとえば "Dr. Koizumi’s Treasure Island : Practice, Fair Play and Friendship"は、まさしく横浜正金銀行ロンドン支店の黄金時代というべき 1910年代半ばにロンドン留学し、ロンドン支店長の家に世話になった、のちの慶應義塾長・小泉信三の横顔をスケッチしたものだ。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は最終的には 世紀転換期から第二次世界大戦に至る横浜正金銀行ロンドン支店の歩みを辿り、その過程でいかに慶應義塾が介入したか、そこが輩出した逸材がいかなる知的形成を遂げたかを焦点に絞っているが、インターネットの発展により、思わぬ形で研究への協力者が次々に現れるようになったことは朗報である。 以前から横浜正金銀行ロンドン支店のことを同様な関心から調査し、戦前日系人社会史の観点から論考や著書も発表してきているロンドン在住の作家・歴史家の伊藤恵子氏とも意見交換を続け、昨年 2023年には東京にて再会を遂げたが、来年度 2024年度にはニューヨーク学院にも講演に招聘予定。さらに昨年 2023年 11月末には、ロンドン近郊ストレイタムに居を構えていたロンドン支店長・巽孝之丞の邸宅の住み込み料理人だった野田安之助氏の孫、野田安平氏のご厚意で、安之助氏のイギリス側の孫であるセーラ・チョークラフト( Sarah Chalcraft)氏(つまり野田安平氏の腹違い、国籍違いのいとこ)と羽田空港にて初対面を遂げるという僥倖に恵まれた。彼女の母のドリスは死ぬまで父親が日本人だったとは明かさなかったようで、そうした背景にも当時のイギリスにおける混血人種への偏見が窺われるが、親族に「野田安之助にあったことがある」という証言があり、DNA検査をしたところ25%は日本人という結果が出たのだという。こうした人種混淆への根強い偏見の中、いかに野田安之助氏が国際結婚し、その子孫が 21世紀現在もイギリスで健在という新発見は、横浜正金銀行の当時におけるグローバルな位置を探る代表者の本研究にも、今後新たなコンテクストを導入することになることは、疑いない。
|
Strategy for Future Research Activity |
ニューヨーク学院に赴任しているという地の利のため、大西洋経由でイギリスに渡ることも難しくないので、何らかの形で再度、ロンドン滞在し、すでに密接に連絡を取り合っているストレイタム郷土史協会とも再会した上で、大英図書館におけるリサーチを続行したいと思う。 加えて、 2021年の秋に「巽孝之丞展」を開催した和歌山県の南方熊楠顕彰館とも、理事の志村真幸氏を中心に交流が深まっているので、祖父孝之丞が慶應義塾大学塾長の鎌田栄吉や小泉信三らとともに財政管理を支えたという紀州徳川藩の末裔にして「音楽の神様」とも言われる徳川頼貞の足取りについてもーー広範囲なヨーロッパ外遊を含んでいるだけにーー調査を続行したい。折しも、音楽関係を主軸に、多くの新資料がまとまり始めたところである。 徳川頼貞自身は学習院出身で慶應義塾出身ではないが、慶應義塾の要人には和歌山県出身者が多く、鎌田も小泉も巽もそうであり、この系譜を辿るならば、学閥ならぬ藩閥が明治から大正へ至る時代にあってもなお強靭であったことが検証できるであろうから。 加えて、これもつい最近判明したことだが、ロンドン支店では祖父孝之丞の上司であった中井芳楠もまた和歌山出身であり、しかもその孫が、代表者とは長い友人であった作家の中井紀夫氏であった。これはまことに本研究のために生じたかのような奇遇であり、一時帰国の際に、中井氏を訪問し、家系の詳細を尋ねる予定である。
|
Research Products
(12 results)