2021 Fiscal Year Research-status Report
戦間期英国小説におけるセクシュアリティ表象と「クローゼット」の力学を読み解く
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21K00399
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
長島 佐恵子 中央大学, 法学部, 教授 (90439555)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 英国小説 / セクシュアリティ / ジェンダー / クィア・スタディーズ / 戦間期 / クローゼット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「クローゼット」をキー概念に、20世紀前半の英国社会におけるセクシュアリティ理解および後の同性愛をめぐる権利運動までの流れについての理解を深め、戦間期の文学における非規範的なセクシュアリティ表象と社会状況の相互作用を明らかにすることを目的としている。具体的には、戦間期を中心に、セクシュアリティをめぐる社会状況と文学の関係を歴史研究と批評理論の両面から整理し、そこに個別の小説作品に表れるセクシュアリティ表象を位置付けて分析・評価する。 研究初年度である2021年度は、E.M.フォースターからクリストファー・イシャウッドを経て現代までつながる同性愛表象の歴史的経緯について文献調査を進め、そこに読み取れる「クローゼット」という場の複雑な性質と機能についての分析・考察を、論文「『モーリス』とクローゼット」にまとめて日本ヴァージニア・ウルフ協会の『ヴァージニア・ウルフ研究』にて公表した。また、1920年代を中心とする英国およびイタリアやフランスにおける女性同士の親密な関係の位置づけについて文献調査を行った。さらに具体的な文学テクスト分析に向けてエリザベス・ボウエンの初期作品(特に短編作品)を取り上げ、そこでの女性同士のつながりが異性愛に対して破壊的な力を持つ構図と、それが文学テクスト内の空間描写と深く関連していることについて分析し、研究会で報告をして関係領域(歴史・文化研究)の研究者からコメントを受けた。セクシュアリティの理論的理解については、同性愛だけでなくバイセクシュアリティについても、主に1990年代以降の文献調査を行なって、バイセクシュアリティの可視・不可視に関する理論の系譜整理に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響が続き、当初予定していた国外での調査を実施できなかった。当初の計画では2021年度は夏季にイギリスで資料収集と文献調査を行う予定であったが、渡航を中止せざるを得ず、そのため文学作品の同時代における評価を確認するなどの部分で資料へのアクセスが十分でなく、予定よりも進捗がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度もコロナ禍が完全に収束したとはいえず、海外渡航には一定程度の困難が残る可能性がある。調査のための渡航に支障が続いた場合には、文献収集については海外の専門書店などからの取り寄せなど工夫を続けるが、文学テクストの出版と同時代のメディア言説についての分析は予定より規模を縮小し、批評理論の部分を深化させる。特にボウエンやウォーのテクストにおけるセクシュアリティ表象の特色を明らかにするために、同性愛だけでなくバイセクシュアリティとクローゼット概念の関わりについて考察を深める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により海外での調査ができなかったため残額が生じた。2022年度に調査渡航が可能になればその追加予算とする。渡航の困難が継続する場合は資料の購入に充てる。
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