2023 Fiscal Year Research-status Report
戦間期英国小説におけるセクシュアリティ表象と「クローゼット」の力学を読み解く
Project/Area Number |
21K00399
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
長島 佐恵子 中央大学, 法学部, 教授 (90439555)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 戦間期英国小説 / クィア・リーディング / レズビアン / バイセクシュアリティ表象 / セクシュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、イギリスの戦間期小説におけるバイセクシュアリティ表象の読解とクローゼット概念の関連および、20世紀後半以降のセクシュアリティの理論化におけるレズビアニズムやバイセクシュアリティの可視・不可視という問題について、国内での資料収集および文献の読解を継続した。
具体的な進捗としては、まず前者については、レズビアン研究およびバイセクシュアリティに関する理論的研究を踏まえて、エリザベス・ボウエンの初期短編小説の読解を進めた。クローズドな研究会に参加して具体的な作品を紹介し、文学や映画研究、歴史研究およびクィア・スタディーズを専門としている他の研究者から、さまざまなコメントをもらうことができた。年度内に正式な成果発表につなげるところまでは至らなかったが、次年度の国際学会での発表に向けた準備ができた。後者については、当初の研究計画からは修正となるが、2000年代のクィア批評における重要文献の一つであるAnn CvetkovichのAn Archive of Feelingsの翻訳に携わった。従来見過ごされがちであったレズビアンの公的文化に焦点を当てて文化表象の政治性を読み解く本書は、セジウィックのクローゼット論への応答といえる部分もあり、公的/私的領域と可視/不可視の問題から文化表象に取り組むという点で、戦間期小説の批評的読解にも資する文献である。共訳者との議論からも、今後の文献収集とそれを踏まえた作品読解についての示唆を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本務校のキャンパス移転により教務等の業務量が著しく増加し、2023年度も英国に渡航して歴史史料の調査をすることが叶わなかったため、すでに理論的研究の方に方向性をシフトし始めていたが、その方向で研究を継続することとした。それに従って、文学テクストの読解においても批評的枠組みを修正する必要があり、また新しい理論的文献にも取り組むことになったため、年度内での研究成果発表まで至らず、進捗はやや遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は2023年度までの研究期間を予定していたが、一年間延期して2024年度までの実施とした。2024年度は、前年度に進めた研究の成果発表をしていく予定である。具体的には、エリザベス・ボウエンの作品をバイセクシュアル・ナラティブとして読み、それをクローゼット概念と照らす批評実践を、IASIL Conference 2024において発表する。また、批評理論の文献翻訳や、理論的文献から照らした20世紀前半の文学テクストにおけるバイセクシュアリティの批評的読解を、他領域の研究者とも意見交換をする形で学会発表することを目指す。
|
Causes of Carryover |
キャンパス移転による業務量の増加により、海外渡航を伴う調査ができなかったため残額が生じた。2024年度に調査渡航を実施できればその予算とするが、研究の進捗と合わせ考えて渡航しない場合には、研究成果発表にかかるコスト(発表に使う機器の購入等を含む)や文献資料購入に充てる。
|